はいさい。
ヤンバルクイナを見たい。当初の予定はそれであった。
「HONZ生きものがかり」の塩田春香と軽い腰をあげて南へ飛んだのはこの秋のこと。沖縄への自然探索の旅である。
そして、無事にヤンバルクイナを見ての、その帰りの最終日の夜のことだ。
私たちはとある那覇の人気店でアグー豚を食べていた。隣では愉快な地元のおじぃが楽しそうにやはり、アグー豚を食していた。
この素敵なおじぃ、これが只者ではなかったのである。それもそのはず、1972年の沖縄本土復帰後からすぐ、長年沖縄を撮り続け、そして、島の美しさ、のみならず喜怒哀楽を内外に伝えてきた写真家、垂見健吾さんだったのである。雑誌のグラビアで写真を見た人も多いだろうし、池澤夏樹さん、椎名誠さん、吉本ばななさんなど、作家さんとの共著も多い。作家の創作意欲をなにか刺激するのだろう。
長野県出身の垂見さんは、文藝春秋写真部を経てフリーランスのカメラマンとなり、今は那覇に住む。沖縄を飛ぶJTAの機内誌「コーラルウェイ」での連載でお馴染みの方も多いはず。
「東京を拠点に、国内外、様々な場所を訪れ撮影をしていましたが、そのうち、沖縄での撮影が増え、沖縄にどんどん友人が増えてきました。それであれば、沖縄を拠点に様々な場所に旅するのも同じだろうと思い、沖縄に移住を決めたんです」とご本人は語る。
これ(アグー豚)も何かのご縁、ということで、お話を聞いてさっそくクラウドファウンディングで制作したという最新刊の写真集を入手。東京に戻ってからご本人に舞台裏をうかがいつつ、ご自身の写真で(特別に掲載を許可いただきました!)、沖縄撮影ライフ50年分、500枚560ページの「めくってもめくっても」な集大成、分厚いこと3.7センチの写真集をご紹介したい。
紹介する写真はごく一部なので、実物を手に取ってみてほしい。
印刷費を含めた制作費に当てるためのクラウドファウンディングには、写真に込めた思いを文章にし、沢山の人に訴えることができたという。お金が集まったあとはどんなふうに50年分の写真を編集していったのだろう?
「まずは何十万枚とあるフィルムを一枚一枚見直して3000枚ほどまで選び、それを沖縄の編集者たちと整理しました。同時に、セレクトしたポジフィルムを、沖縄で活躍する40代の写真家3名に1日3時間から5時間、それを5、6回だったかと思います。複写してもらいました。みんなで集まり、写真を見ながら、その当時の撮影の話や、時代とともに移り変わって今はもう見ることができない風景など、いろんな話をしながらの複写の時間は、写真を通して沖縄の素晴らしさを共有できた、とてもいい時間だったと思います。
そうやって複写した約3000枚のデータを東京で活躍するアートディレクターに渡し、レイアウトを組んでもらい、そこから少しずつ並びを変えて行ったり、写真を差し替えたりして、最終の形となりました。沖縄といえば「青い空、青い海」というイメージの表紙が来るかと思いきや、波照間島の高那崎に打ちつける波の写真が表紙案で上がってきた時、いいものになる、と思いました。」
紹介した写真は500分の7、ごく一部なので、実物を手に取ってみてほしい。沖縄の多彩ぶりに瞠目することまちがいない。そして、次の旅は沖縄になるにちがいない。
最後に、ご自身の作品について、お勧めするなら何かと、失礼ながらあえて聞いてみたところ、
「2016年に出版した『琉球人の肖像』(スイッチ・パブリッシング)です。
沖縄を撮り始めて、僕が一番惹かれたのは、沖縄の人たちの「顔」でした。1980年代半ばから沖縄の友人たちを撮り始めたのをきっかけに、沖縄の人々をモノクロームで撮影した『琉球人の肖像』と、2000年代後半から世界各国「沖縄」の血や文化が混じり合う人たちをカラーで撮った『新・琉球人の肖像』というプロジェクトを一冊にまとめた写真集です。いずれも大判カメラで撮影しています。沖縄の人たちとの出会いが生んだ一冊です。」とのことだ。
こんな人に沖縄で会いました。そんな風に思える一冊だ。
また、沖縄に行きたくなってきた。
(写真はすべて垂見健吾さん。無断転載禁止)
沖縄では、ジュンク堂書店那覇店にて。