『かがくを料理する』:「サイエンス×工作×料理」のおいしい世界!

2023年12月3日 印刷向け表示
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作者: 石川 繭子,石川 伸一,加賀 麗
出版社: オライリー・ジャパン
発売日: 2023/9/27
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先般、東京出張の折に、はじめてHONZの朝会というものに参加しました。HONZのメンバーが原則(少なくとも今回は)ひとり一冊、今読んでいる本、あるいはこれから読もうと思っている本を持ち寄り、その本に対する期待やおもわく(?w)について語る会です。

で、そのときHONZレビュアーの首藤淳哉さんが、『かがくを料理する』という本を持っていらしたのです。

いえね、「料理の科学」みたいな路線の本なら、わたしもこれまで何冊も読んできたんですよ。でも、「かがくを料理する」ってなんだろ??? って不思議に思ったのです。今どき科学と料理を結び付けて新しい本を出すのなら、分子調理(分子ガストロノミー)方面の実践的入門書かな? とわたしは思いました。(実際、その推測は当たらずとも遠からずでした。『かがくを料理する』の三人の著者のうちおふたりは、分子調理の専門家だったのです!)

ところが首藤さんは、「なんじゃこの本は! わけわからん! オムライスを三つ重ねてゴルジ体とか、はぁ~?(笑)」などとおっしゃるではありませんか。興味を引かれたわたしが本をお借りしてページをめくったところ、そこには予想もしない世界が広がっていたのでございます。

なんと、サイエンス的オブジェクトを、料理で表現するという新機軸が打ち出されていたのです!! つぎつぎと現れる意表を突いた料理に、わたしはすっかり魅了されてしまいました。すると、そんなわたしの様子をごらんになった首藤さんが、この本をわたしにプレゼントしてくださったのです!

ページをめくればめくるほど、これは楽しくもすばらしい企画だと思いました。「サイエンス」と「工作」と「料理」が合わさる領域に、これほどの「沼」が広がっていようとは!

この本の著者さんたちは、「料理はかがくを伝える強力な道具だ!」と謳ってらっしゃいます。最初わたしは、「まあ、そうは言っても、わたしはそれなりに知っているオブジェクトだし、工作や料理としては楽しいかもしれないけど、勉強にはならないかもね….」ぐらいに思っていました。でも、違いました。甘かったです。舐めてました。

実際に作ってみることで、自分でも驚くほど、サイエンスの世界が広がりはじめたのです。さわってみること、動いてみることの重要性を再認識いたしました。

「サイエンス」×「工作」×「料理」の合わさる世界にちょっとでも興味をお持ちの方に、この本、強くお勧めいたします!

以下、わたしが実際に作ってみたものをいくつかご紹介いたします。

「生体膜」×「野菜たっぷりキーマカレー」

もうね、写真で見るより、実物はずっとカラフルでかわいくて楽しいのです! 野菜の切れ端や余ったシメジなどはみんなキーマカレーになるので、無駄もありません。

細胞内部はキーマカレー、細胞外部はライス。生体膜を構成するリン脂質はシメジ、チャネルはニンジン、受容体がピーマンです。ミニトマト、ラッキョウ、オクラは、細胞内外を行き来する物質。すばらしい。そして美味しい!

「ニューロン」×「いかつくね串」

見た目のインパクトもすごいイカ料理(笑)

細胞体、樹状突起、髄鞘(シュワン細胞)は「イカつくね」で表現され、軸索部分は「イカロール」、ロールの間隙でランピエ絞輪などが表現されています。細胞体に乗っているのは、梅干しペーストです。

つくねをさらに美味しく食べるために、よろしければ、次のレシピも試してみてください。余ったイカの切れ端の重量をもとに、分量をスケールしてね!

イカの切れ端(100g)
鶏ひき肉(50g)
長ネギみじんぎり(10cm分)
ショウガすりおろし(小1)
大葉きざみ(2枚)
鶏ガラスープの素(小1)
砂糖と白コショウ(好みで少々)
片栗粉(硬さを調節)

なお、イカは直径1mmにもなる巨大なニューロンを持つことで知られ、ニューロン研究にも貢献してきた動物なのだそう。しかしはわたしは料理中に、イカのニューロンをみつけることができませんでした。以下の動画とかを参考に(3:30~)、次回イカを料理するときは、ぜひニューロンを見分けられるようになりたいと思っています。

「クロマチン」×「ミートボールいっぽんパスタ」

DNA鎖(パスタ)は非常に長いので、そのままでは扱いにくい。そこでヒストン(ミートボール)に巻き付けてクロマチンという構造にすることで、扱いやすくしているのです。

写真だけみると、アイディア優先で味は二の次の料理ように思われるかもしれません。さにあらず。これが想定外に美味しかったのです。

パスタはつねにそうでしょうが、このパスタの場合もソースが決め手ではあります。本のレシピは、「好みのソースで」となっているので、わたしはシンプルなトマトソースを作りました。ですが、そのためのトマトを、HONZ副代表の東えりかさんに教えてもらって以来、ずっと使っているダッテリーノのトマト缶。これがいつもながら美味しい! シンプルなトマトソースなのに、いやシンプルだからこそ、おいしいのです。トマトソースは、やはりトマトが決め手ですね~。

また、手打ちの生パスタの食感が、思う以上によかったです。(わたしはホームベーカリーの練り機能を使い、デュラムセモリナに強力粉を少し配合しました。)手打ちパスタを美味しく仕上げるコツは、幅はともかく、厚みを一定にすることだと思います。わたしはお菓子製作用のルーラーを持っているので(この場合は厚さ2mmを使用)、両側にルーラーを置いて長めの麺棒で延ばせば厚みがそろいます。

丸く伸ばしたパスタをキッチンバサミでちょきちょき切っている作業により、「DNAって、なんて長いんだ….」と実感することができました(笑)。切っても切っても終わらない…..

そして、オーブンで仕上げる巨大ミートボールが、想定外に美味しかったです! 三つの要素が合わさって、食べ応えのある納得の一皿になりました。

「ミトコンドリア」×「チーズインとんかつ」

これは単純に、やわらかくて食べやすいチーズとんかつです! ミトコンドリアに相応しく、食べてエネルギーになる。ミトコンドリアのマトリックスやクリステが、チーズと海苔で表現されています。

「水分子」×「2種の卵の目玉焼き」

H2Oを、鶏卵とウズラの卵で表現。二本の軸のあいだの角度を 104.5度にしないといけないのですが、これがなかなか難しい……。この写真の場合、ちょっと広がりすぎたかな。

とはいえ、卵白の様子は、まあ、電子雲の基底状態に見えなくもないのでは?

「葉緑体」×「ベジタブルピタ」

野菜たっぷりのベジタブルピタで、葉緑体を表現!

なお、ピタに入れるほうれん草パウダーがなかったので、ほうれん草の葉先を茹でたものを使いました。また、「練り」と「発酵」は、ホームベーカリーを使いました。

チラコイド(胡瓜のスライス)、グラナ(胡瓜が重なった構造)、そして外膜(ピタ)、内膜(レタス)、ストロマ(空間)を埋めるフムスのバランスが予想以上にいい感じで、わたしはとても気に入りました!

ミトコンドリア(とんかつ)に比べて、葉緑体(ベジタブルピタ)がさわやかな食べ心地なのも、なんとなく納得(笑)

ほかにもまだまだ、作って楽しく、食べて美味しそうなレシピがたくさん掲載されているので、引き続き少しずつトライしてみるつもりです!

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!