日本が難民の受け入れに厳しいことは知っていた。しかし生活圏内のコンビニや建築現場などに外国人がたくさん働いていて、いまやなくてはならない存在になっている。
日本人が普通に暮らしている限り、非正規滞在者を収容する出入国在留管理庁の施設、通称「入管」のことはほとんど知る機会がなかった。だが2021年3月、名古屋の入管で収容中のスリランカ人、ウィシュマ・サンダマリさん(33)死亡事件における裁判で、最期の時の映像が明らかにされ、世間は虐待の事実を知る。
佐々涼子はある日、25年ぶりに大学の同窓生である児玉晃一と再会する。児玉は弁護士になっており、いまでは「入管問題の神様」になっていた。
入管にはどんな人が入れられるのかさえ知らない佐々に、児玉は映像を見せながら一から説明をおこなった。オーバーステイなど非正規滞在になった外国籍の人は誰でも閉じ込められてしまうという。映像には苦しがる人の姿が映されているが、助けは来ない。人は死んでいく様を見せられた佐々は実態を知るために、各地の入管に行き、裁判を傍聴した記録が『ボーダー 移民と難民』(集英社インターナショナルである。
本書で感じるのは、入管に収容される人の真面目さだ。きちんと滞在許可を求め、認めてもらおうとする真摯さが胸を打つ。政治的迫害や戦争などで身の危険を感じて日本に逃れてきた外国人を、強制送還するのが目的のように施設に閉じ込める。
救いは仮放免された人を受け容れる鎌倉の施設「アルペなんみんセンター」だ。佐々はここで一か月間、一時的に入管から解放された人たちと暮らした。その記録をぜひ読んでほしい。日本が早急に替えなければならないシステムであると確信する。
その入管から逃げ続ける人たちを取材したのが安田峰俊『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)である。
日本には「技能実習生」というシステムがある。公益財団法人国際人材協力機構によると「外国人の技能実習生が日本において企業や個人事業主等の実習実施者と雇用関係を結び、出身国において修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図るもの」とされている。期限は最長で5年。
かつては貧しい中国人が多かった現場は、いまはベトナム人中心となっている。
雇用者の扱いは様々なため、耐えきれない者は逃亡して不法滞在者となることを選ぶ。自らを鼓舞するように「ボドイ(兵士)」と自称し、地下茎のように張り巡らされた同郷者のもとに集う。
著者は日本育ちのベトナム人を通訳に、カメラマンとともにそれぞれの事件を追い、事件の背景と彼らの生活に肉薄する。
しかし日本の凋落が明らかになっている今、果たして技能実習生というシステムは存続できるのだろうか。彼らの悲哀と日本の行く末に暗澹たる気持ちになった。
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アマゾンプライムのドラマで高評価なこの作品の原作は佐々涼子さんの第10回開高健ノンフィクション賞受賞作。レビューはこちら。
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