11月に入り、書店店頭も一気に年末色が濃くなってきました。年間ベストセラーの発表もすぐそこまで迫っています。コロナ禍後の世界の姿が見え始めてきた中、IT業界ではレイオフのニュースが立て続けに報じられています。一方でAI技術は絵画のようなクリエイティブの領域でも話題になって…という昨今。人工知能と人間はどんな関係を築いていくのか、そんな未来予測を行った『AI2041 人工知能が変える20年後の未来』は12月の注目新刊の1冊となりそうです。
著者はコンピューター科学者でベンチャーキャピタリストでもあるカイフー・リーと中国SFの超新星と言われるチェン・チウファン(デビュー作の『荒潮』は話題になりました)。技術とSFの発想力のコラボレーションによって創り上げられたこの本は、昨年発売後大きな話題となり数々のメディアの年間ベストブックに選ばれました。そんな話題の作品がいよいよ日本に上陸します。
これから出る本は他にも注目本がいっぱい。気になったものをいくつか紹介していきます。
改めて死刑制度に対する注目が集まっています。日本では死刑容認派が8割となっているそうですが、他の国ではどうなのでしょうか。アメリカ、スペイン、フランス、日本それぞれの死刑に迫ります。死刑に対する考え方や実情、そして死刑囚や加害者、被害者の家族の声と向き合う中で見えてきたこととは。『安楽死を遂げるまで』で話題となった著者がもう一つの「死」の問題に迫ります。
“老いとの付き合い方”も2022年の出版業界の大きな話題でした。『LIFE SPAN』以降、サイエンスジャンルからも老いについて考える本が続々出ていますが、来月も何点かの発売が予定されています。この『AGELESS』は老化治療の最前線を描いた本。また、12月には超長寿動物の機能から長寿の秘密を解き明かす『「老いない」動物がヒトの未来を変える』。それらのテーマを新書というカタチで手にとりやすくした『寿命ハック』など。新年の豊富を語る前に読んでおくのも良いかもしれません。
これまで多くの中国のルポを送り出してきた著者が激動の香港社会を描いたルポルタージュ。
この主人公はハオロンという15歳の少年です。普通の少年に見える彼は、釣りをするだけの怠惰な日々を過ごしている一方で過激なデモにも参加します。
少年と行動することによって見えてきた香港の姿、そして少年の未来とは。激動の香港の3年が描かれます。
利他の心や利他行動をとる動物はヒトだけではない、というのは多くの本でも語られています。ただ、海を超えて、見も知らぬヒトを手助けするというのは人間だけなのだそうです。果たしてその違いはどこにあるのでしょう。この本ではそんな「親切」の歴史を進化から振り返ります。
人間の理性と本性の人類史。
サッカーW杯が開幕したばかりのカタール。この開幕までに多くの外国人労働者が強制労働を強いられている、というのが大きなニュースになっていました。この『現代の奴隷』でも、カタールでの問題が取りあげられています。
このように売られ、酷使される人たち、まさに現代の奴隷は世界で5,000万人超という規模になっているということ。そしてこの人身取引は数十兆円規模のグローバルな闇産業となっています。そんな現実と、問題解決に取り組む人たちに光を当てた1冊。
『ブルーインパルス 大空を駆けるサムライたち』の著者が、防衛大学校卒業生を追ったノンフィクション。防衛大学校に初めて女性が入ったのはちょうど30年前のことだそう。卒業後幹部自衛官となっていった女性たち。ある人はイージス艦艦長、ある人はブルーインパルスを飛ばす立場…などなどそれぞれの格闘の歴史を描きます。
*
前月のこのコーナーで国内作家のルポやノンフィクションが増えてきた、と書きましたがその傾向はさらに顕著に。現場に通い、人と対話しながら書き上げたルポが目立ってきています。22年もそろそろ終わり。最終月も賑やかな店頭が期待出来そうです。