筑後川は「筑紫次郎」の異名のとおり「坂東太郎」の利根川「四国三郎」の吉野川とともに日本の暴れ川と言われている。さらにここ10年あまり、九州に打ち続く豪雨は毎年のように筑後川とその支流に大水害を起こす。
著者は2009年から九州北部を流れる広大な筑後川流域の全域で、川と人間の共生の歴史を調査してきた。
本書の冒頭に掲げられた筑後川全域の地図を見ると、その広さに圧倒される。源流の最奥地は山深い阿蘇や大分の竹田市。名前の違う毛細血管のような支流が合わさり、最後は筑後川となって有明海に注ぎ込む。
古来人々は川に恵みを求め、川を恐れて生きてきた。それぞれの流域の特徴を生かして栄え、水害を回避するための知恵を蓄えてきた。その一つが地名である。
上流に多く見られる“ツエ”とは熊本で「崩れる」という意味。山腹の地すべりなどが多いことを指す。
また、かつて中流域に多くあった“ツル”という語音の地名は川が屈曲した場所のこと。近年の洪水でも氾濫が起こった場所だが、今ではその地名はなくなっていたりする。古くからの住民が「崩平」と呼んだ場所も、名前の通りがけ崩れが起きた。町村合併などで地名が変えられた後に住んだ住民は知る由もないことだ。
大河であるがゆえ藩境や県境となり紛争が絶えなかった。近年でもそれぞれの県や国の省庁などの縦割り行政で争いが起こっている。ダムの問題などその最たるものだろう。
大きな天災が起こると国は「想定外」と口にする。だが「福岡県災害異誌」によれば中下流域だけで1578年から1918年の340年間に118回の洪水が起こっている。3~4年に一度の水害は想定外とは言えないだろう。
本書に具体策は提示していないが、新たな方法が見えてきたと感じる。日本各地の流域で、このような調査が行われ、川と人間の共生が実現出来たら、と心から思う。
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我々が住んでいる場所は、すべてどこかの“流域”に属している。その川、その土地の特性を知り、災害に備えるための知識を得るための必読書。