人は本来、自分自身が成長したいという願望がある。それが学習でも仕事でも、一生に打ち込めるライフワークを見つければまだいい。ただ目指すべきロールモデルとなる人が、まわりにいないのでないか。
たとえば貴方が会社員であれば、友人は同じく会社員であることが多い。似たような環境、似たような考え方であることも多いし、本当の意味で刺激的な人と出会うのは少ないだろう。その方達に直接話を聞くチャンスはもっと少ないのではないか。
本書はそうしたロールモデルがいなくとも、価値ある話を聞く疑似体験ができる一冊だ。著者は、元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏と、「2ちゃんねる」の創設者であり論破王と呼ばれるひろゆき氏。お互いの知見による雑談を纏めたものである(※)。テーマはSNSの情報収集術からメタバース、今後のNFT、さらにウクライナ戦争後の世界の行方や、アートについてなど縦横無尽に語られる。
両者はこれまで数多くの著書を出しているが、それらの本と比較しても、本書のリズムは良い。たとえば核融合の話題にしても、この調子だ。
ひろ
ここ数年「核融合」という言葉を聞くようになりましたよね。 ビルゲイツ、 Amazon の創業者のジェフ・ベゾスたちも核融合ベンチャーに数百億円レベルで投資していますし。成毛
核融合は僕もかなり注目していて、30年後のグローバル巨大産業になることは確実だと思います。水素などの軽い原子核を融合して、ヘリウムといった重い原子核に変えることで非常に大きなエネルギーを発生させる技術ですからね。ひろ
そうやって世界から注目されている技術ですが、日本は置いてけぼりにされそうな気がするんですよ。というのも、日本って核に対するアレルギーが強いじゃないですか。成毛
「核=原子力発電=放射能」というイメージが強いので、反射的にアレルギー反応を起こす人が多いでしょうね。「核融合」と「核分裂」は違う技術で、原発事故のように放射能が拡散するような事態は核融合では考えられないんですが、ごっちゃになっている。ひろ
ってことで、日本以外の国では核融合の開発と普及が進み、結果的に「普及した国から技術を買う」みたいな感じになるかと思います。成毛
ただ日本の研究もいい線いっているんですよ。 例えば磁場閉じ込め方式の「トカマク型」核融合実験装置は、日本とヨーロッパとアメリカが有力です。ひろ
あ、そうなんすね。
まるで2人の声が聞こえてくるかのようだ。臨場感が伝わり、楽しんでいる表情まで浮かんでくる。ちなみに原発再稼働問題でも、短いセンテンス(計7ページ)の中で日本がとるべき有効な解決策を提案している。
本書自体のテーマは「自分の頭で考える」だが、2人の意見は一致している。それは評価の高い本を読んで、その内容を受け売りするだけ。本当に頭のよい人は世の中に1%くらいしかおらず、残りの99%は頭のよい人の考えを受け売りしたほうが合理的だとしている。下手に頭の悪い人が自己流で考えると、変な判断になってしまうという理由からだ。
そして話題は、デジタル円からメタバース、アートへと続く。フランスの知り合いが木彫りの熊の置物を40~50万円で購入した話題は、日本ではマンガはアートじゃないという風潮にあると流れ、『鬼滅の刃』も「世界中で大人気のアートです」と主張すべきと言えば、グラビアはアートか…と会話はどんどん予測と違う展開になる。これはジャズ・セッションのような即興の魅力があり、なにより読んでいて面白い。
そのうえ対話の最中も、2人はテーマの反論を必ず用意している。ひろゆき氏は、あえて話を面白くするために、少し地雷を仕掛けて話を広げたりもするそうだ。もはやエンターテインメントである。
合理性と知的好奇心に興味を抱く人達にとっては、終始楽しめる内容だ。
※本書は『週間プレイボーイ』の2021年9月~2022年5月に連載されたもの