先日、学校でサッカーをして帰ってきた小学校1年生の息子に、「今日本が世界で一番強いんでしょ」と聞かれた。「もちろん」と力強く答える私。
そう、2010年10月8日、サッカー日本代表A代表は、世界の頂点に立った。
1998年、アルゼンチンを相手に日本サッカー史上初めてのタイトルマッチに挑み、0-1で退けられて以来、フランス、スペイン、オランダと三度の世界戦に敗れ続けてきた日本は、5回目の挑戦でアルゼンチンを1-0で破り、悲願を達成したのだ。そして驚くべきことに、その後の挑戦相手をことごとく退けて15回連続防衛を果たし、チャンピオンに君臨し続けている。
なんのことだろう、と思った方も多いだろうが、UFWC(非公式フットボールチャンピオンシップ)の規定によれば、これはまぎれもない事実なのだ。
UFWCの発想を生み出したのは、1967年4月、イングランドとの戦いを制したスコットランド代表のサポーターたちだ。当時イングランドはワールドカップ王者。「世界一のチームに勝ったのだから、スコットランドこそが本当の王者だ」と言い出す。
UFWCのルールはそれだけ。すなわちどんな試合であれ、チャンピオンに勝ったチームが新しいチャンピオンになる。そのルールを140年前まで遡って適用し、「非公式サッカー世界王者」を決めてしまったのが、著者であるポール・ブラウンが運営するUFWCなのだ。
一試合で王者が決まるため、1963年のオランダ領アンティル(現キュラソー)、1988年のウェールズ、1995年の韓国、2006年のグルジアなど、意外なチームが世界チャンピオンになることもある。たとえば88年にウェールズがアウェーでイタリアを破った「世界王者戦」は、UFWCを知らないものにとっては、特に見どころのない単なる親善試合だが、チャンピオンシップとしてこの試合を見直すと実に劇的だ。
ウェールズの主将は、イタリアのユヴェントスで、ホームシックから不振に陥り、イタリアのファンからも見放され、失意の日々を送っていたイアン・ラッシュ。前半37分、イタリア陣内の右サイドから上がったボールに対し、バイエルン・ミュンヘンで活躍していたマーク・ヒューズが巧みな動き出しで相手ディフェンダーを釣り出すと、空いたスペースに飛び込んだラッシュは、すばやい反転から一閃、逆サイドネットにシュートを突き刺す。
会場を埋め尽くすイタリア人サポーターが静まり返る。そして総合力で上回るイタリアの猛攻をしのぎ、ウェールズはこの1点を守り切る。イタリアで不遇を囲っていた選手が、まさにそのイタリアで、ウェールズを実に51年ぶりの世界チャンピオンに導いたのだ……。
まあ、こんなふうに描いたところで、ファンも選手も、この試合は単なる親善試合だとしか思っていないだろう。当のラッシュだって、自分が世界一を決める試合で、かくも劇的な活躍をしたことなど、知らないかもしれない。日本がアルゼンチンに勝利して世界王者になった2010年のキリンチャレンジカップだって同様だ。
でも、だからこそ面白いのだ。見る側がデータを眺めながら好き勝手に楽しむという、スポーツの楽しみ方の亜流でありながら、脈々と続いてきた伝統的なオタク的態度こそ、愛すべきものだと、私は思う。
本書には、FIFAという巨大組織が決める「絶対的なサッカー正史」の背後に隠された歴史をあぶり出す、密やかな愉しみがある。そして何より、本書を読めば、この先日本代表の試合をとにかく楽しめるはずだ。なにしろ、この先の日本代表の試合は、すべてワールドカップ決勝戦と同じ価値を持つのだから。
もうひとつ書いておきたいのは、UFWCが、世界チャンピオンに対し、実に生真面目に敬意を評していることだ。ぜひとも公式サイト(非公式FWCの公式サイト、ややこしい)を覗いてみて欲しい。英語で書かれた日本代表チームの情報が満載で、現在のトップ記事は、先日行われた「世界王者決定戦であるところの、サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会アジア3次予選C組の日本代表-タジキスタン代表戦」(もうこの表現がわけがわからない)のレポートである。こんなふうにサッカーの母国であるイギリスのサイトに英語で書かれた記事が載ると、なんだか本当に世界王者になったような気分が味わえて、ちょっと嬉しい。
本書は気軽に読める本でありながら、大げさに言えば、ものの見方そのものを変えてくれる本でもある。例えば、プロ野球に三角ベースのようなルールを適用し、3塁まで達したら1点入ると計算し直したら、もしかしたら、意外な弱小球団が優勝しているのかも知れない(「野球小僧」さんあたりにぜひやってもらいたい)。もっと壮大に、古代からの世界中の戦争にある種のルールを当てはめたら、世界最強国はどこになり、世界地図はどうなっているのか……。
ちょっとした別のルールを適応するだけで、事実から、いきなりパラレルワールドが生まれる。この本を読んで以来、そういう妄想的思考にハマり、実はちょっと困っている。
妄想といえば、この本ですね。サーモグラフィ柄セーターはマジで欲しいです。
タイトル見て犯罪者の告白本かと思ったものですが、われらが梅棹忠夫先生の自伝的な読みもの。すべての学究は妄想から始まるのですよ。
日本サッカーの生きたデータや情報という事に関しては、このシリーズほど面白いものはないかも。J2でUFWC的妄想をしたら、相当に楽しいはずだ。