著者 : J-SRI研究会
出版社 : 日本経済新聞出版社
発行日 : 2011/9/23
タイトルがストレートすぎると、つい腰が引けてしまうのは僕だけだろうか?しかし、勇気を持って本書を手に取ってみた。少なからず大学時代に農業に関わっていた身として、本書に登場する稲作革命について読むまで知らなかったことを恥ずべきだった。表紙の左と右の稲の大きさの違いを見てほしい。毎日と言っていいほど、食している米に内在する自然の叡智に驚愕したのである。
まずSRIと聞くと、投資関係の人は「社会的責任投資」と考えるだろう。おたくな人はもしかしたら、スタンフォード・リサーチ・インスティチュートと思うかもしれない。Wikipediaで検索してみると本書に登場する「SRI」はまだ、書かれていない。「System of Rice Intensofication」の略が本書で登場するSRIだ。読み方は「スリ」。サンスクリット語で、「聖」を意味し、スリランカの「スリ」でもある。ちなみに豆知識として「ランカ(Lanka)」は燦然と輝くという意味である。すでに、名前だけでロマンに溢れるSRIであるがその開発ストーリーも日本人にはなじみ深いものである。
それは1960年代の話、歴史の教科書にも登場するイエズス会から派遣されたロラニエ神父が布教の地マダガスカルに派遣され、貧しく飢え人々を目にしたことから始まる。ちなみに、マダガスカルはマレー系の移住者が多く、アフリカには珍しくコメが主食の国である。農学士であった神父は「この国に必要なのは、7人の神父よりも1人の農学者だ」と考え、宣教どころではないと、宣教師としてよりも農学士として活動を始めた。まるで、フランシスコ・ザビエルとクラーク博士を足して2で割ったような存在だ。農学士でも、小麦の名産地フランス生まれの神父は稲作の素人、必死に研究・実験した。その後、SRIの理解普及に努めたが、世界に広く伝道されることなく、1995年にこの世を後にした。このロラニエ神父のことだけで、本が一冊書けそうである。そして現在、コーネル大学・国際食糧農業開発研究所所長アポフ博士にその志は引き継がれ2010年末現在、SRIの実践は42カ国・地域に達している。そのSRIとは、
若いころ(乳苗移植)からひとり立ち(疎植)させ、のびのびとした環境(一本植え)で甘やかさず(間断灌漑)
というフレーズで表現され、まるで子育てのようである。なんだか、とっても自立した子供が育ちそう、イネ本来の生命力を高めるSRIの農法だ。SRIは遺伝子組み換え作物や化学肥料ではない「農法」である。対象的なのは1940~1960年代にかけて広まった緑の革命。緑の革命は食糧危機を救ったと言われているが、それは高収量品種の開発、化学肥料と農薬の投入、灌漑設備の整備などを中心としていた。SRIと比較すれば、過保護に育てられた子供のようだ。そして、緑の革命の評価は過去にはアジアの人口増加による飢餓の可能性を防いだと称賛されていたが、現在ではその後遺症により評価が揺らいでいる。
本書後半は日本を含め、世界各国での導入報告とSRIの詳しい農法とその課題が書かれており、そこから各国の農民の文化が垣間見れる。特に日本では稲作が盛んであり、SRIの実践はなかったのであろうかと当然の疑問が湧く。SRIの4つの基本技術要素(乳苗移植・疎植・一本植え・間断灌漑)の個別研究は行われていたし、かつて日本で篤農家が実施していた稲作法と相通じるものがある。しかし、本格的に日本で試験栽培が実施されたのは2009年@東大柏キャンパス。温帯と熱帯の気候の違いという課題はあるにせよ、期待されているようだ。SRIはこれから発展していく農法だけに今後が注目である。
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つい、革命と言葉を聞くとチェ・ゲバラを連想してしまうのだが、キューバ革命のとき、彼らは農民を味方につけ、革命を成し遂げた。ゲリラ戦において、現地の農民は非常に重要なパートナーである。