2022年2月24日、ロシアが隣国のウクライナに全面的な侵攻を開始した。ウクライナ国民の多くは国境を越え難民となっている。この現実を目の当たりにして、もし緒方貞子だったらという思いが頭を駆け巡る。
UNHCRとは国連難民高等弁務官事務所の略称。紛争などで難民となった人々を国際的に保護・支援し問題解決を図る国連機関だ。緒方貞子は1991年から10年間、第八代国連難民高等弁務官を務めた。常に現場主義に徹し、紛争の現場にフル装備で立つ小柄な姿を思い出す人も多いだろう。
著者の中村恵は緒方と同時期にUNHCRに勤務し、その後パーソナル・アシスタントを務めた。本書は著者曰く「緒方貞子入門書」。現在でも働く女性の憧れである緒方が、なぜ比類なきリーダーになり得たか、強みはどこにあるのか、真の国際人になるためにはどうしたらいいかを、足跡を辿り検証していく。
貞子は昭和2年、外交官の家庭に生まれた。名付け親は曽祖父の犬養毅。終戦後、聖心女子大学の一期生となる。同級生にノートルダム清心学園理事長の渡辺和子やイタリア文学者の須賀敦子がいた。卒業後、国際政治学者となり教鞭をとるが、請われて国連に関わるようになる。
本書の大部分は、いかに緒方貞子が紛争によって行き場を無くした難民の命を助け人間らしさを守ろうとしたかに費やされる。就任直後、ほぼ同時期に勃発したイラクのクルド難民危機やソマリアからの難民によるエチオピア危機、アルバニア難民のイタリア流入などに関わった経緯を読むと、紛争のない時代などないということがよく理解できる。今回のウクライナ侵攻もUNHCRによる難民の支援がすぐに立ち上がった。
本書は若い人にこそ読んでほしい。いま何が自分にできるのかを考えるうえで、またとない道しるべとなってくれるだろう。(婦人公論6月号)
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