私の小学校時代、「道徳」の授業はあったろうか。本書を前にして思い出してみる。あった。確かにあった。だが2018年度から始まった(中学校は19年から)「特別の教科 道徳」は教科化され、通知表で評価が下されもするらしい。一体、何を学ぶのか。
誰もが疑問を持つ「道徳とは何か」を、著者は愚直なほどまっすぐに突き止めようと果敢に挑む。
最初が肝心。まずは小学一年生の教科書を深く読んでみよう。ここではとにかく「学校は楽しい」と説いている。まずはそこから?と思う。
「どうとく」では、よりよく いきる ために たいせつな ことに ついて、みんなで かんがえるよ
著者は「定年後か?」と突っ込む。より良いこととは規則正しい生活、ありがとうの気持ち、周りの人に親切に……などが挙げられている。
それでは、と小学6年生の公開授業に参加してみた。するとそこで目にした題材はパラリンピック(走幅跳)の選手である佐藤真海さんの人生だ。彼女の人生から「見習うべき姿とは何か」と意見を出し合う。「『みんな』が承認する規範に気づき、それに従う」ことが道徳らしい。それってTHE日本人ではないか!
さらに小学生たちに道徳についてインタビューすると、彼らは非常に冷めていた。時には60歳になる著者が人の道を諭される。優等生でなさそうな子の意見が鋭い。
道徳の本質を知りたくて、精神科医を訪ね、総理大臣の答弁を分析し、大人にとっての道徳をさぐっていくと「ハラスメント」という言葉にぶつかった。そうか!道徳に反することがハラスメントだったのか。
新型コロナ禍による生活様式の変容で意識変わりつつ、「みんなが承認する規範」がロシアのウクライナ侵攻でさらに大きく違ってきそうだ。「みんな」が正義を振りかざすとどうなるか。どうやって止めるのか。そこに新たな「道徳」が必要かもしれないと真剣に考えさせられた。(週刊新潮4月28日号より)
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長谷川博己、綾瀬はるか主演、6・12封切りの映画の原作。はい、面白いです!