メタ認知、最近よく聞くようになった言葉だ。辞書をめくると、「自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動」と書いてあるが、うーん、わかるようでわからない。
サブタイトルの頭がよくなることとどんな関係があるのだろうか。著者はメタ認知の専門家であり、中学生入学段階からメタ認知を意識し始めたらしい。きっかけは、英語学習を通じて、頭の使い方を意識するようになったことだ。周囲の友人からは急に頭がよくなったね、と言われるようになったそう。
サブタイトルは「あなたの頭はもっとよくなる」である。昨今、テストの点数がいいだけでは、頭がよいとは言えなくなった。正解のない問いに向き合い、解く力が求められるようになっている。いっぽう、知能研究の歴史を辿ると、頭がよいとは何かに対しては、伝統的に3つの定義があった。
知能とは学習する能力である
知能とは抽象的に考える能力である
知能とは、環境に適応する能力である
定義はあったが、この幅広い能力を把握することは困難であった。そこで「知能とは、知能検査で測られた能力である」という操作的定義が出てきた。測定に重点をおいた知能研究の原点である。それ以降、測ることができる知能が重視され、知能指数(IQ)や知能偏差値といった測定方法が開発され、世間に浸透していった。
心理学者たちは、測定ありきの世界にとどまっていたわけではない。心理学者たちが集まり、知能の定義を考える会議が幾度か開催された。そして、1986年のアメリカ心理学会主催のシンポジウムにおいて検討された知能の定義で、「メタ認知」が考慮されはじめた。
その後の知能研究では、感情知能(EQ)や多重知能理論等が登場し、それらの要素には、実質的にメタ認知を含むと考えられる要素が組み込まれていった。そして、日本も例外ではない。現在の学習指導要綱では、メタ認知という言葉が登場している。自分に備わった知的能力をどこまで活用できるかを左右するのがメタ認知だから、度外視はできないのは当然なのである。
知能研究の歴史におけるメタ認知の位置づけを整理したので、ここからはメタ認知そのものにふれていく。メタ認知は知識と行動の2つに分けられ、メタ認知的知識は、人、課題、方略の3つに分類される。メタ認知的行動はモニタリングとコントロールの2つがある。これらは書籍にはわかりやすい図表にまとめられており、分類を知っておくだけで、頭が整理され、普段の頭の使い方を振り返ることができる。
抽象的な言葉の分類だけでは思考が上滑りするので、まずはメタ認知的知識について忘れ物が多い人を例に、メタ認知的行動についてはおつかいを例に説明してみたい。
メタ認知的知識
- 「一度に多くのことを言われても覚えられない」と一般的に言われます。(人:一般的な認知の特性)
- Nさんの場合、大体旅行をするときには忘れ物をします。家を出る前に家族に「あれも持っていきなさい」と話しかけられると、いつも忘れ物をします。(人:自分の認知特性)
- しかし、姉のSさんはあれこれ言われても、完璧に準備もできています。どうやら、頭の使い方が違うみたいです。(人:他者の認知特性)
- 旅行はふだんの外出よりも、持っていく荷物が多く、カバンもいつもと違います(課題)
- 「忘れ物を減らすには、チェックリストをつくればいい」と「出る前にもう一度確認すること」と教えてもらいました。そして、チェックリストをどうややって作れば良いか、そしていつ作ればいいかを考えることにしました(方略)
メタ認知的行動
お好み焼きを作るから、材料を買ってきてとおつかいを頼まれ、近くのスーパーマーケットに買い物に行きました。
- 買い物を忘れないように「リスト」を作成(コントロール)
- 買い物の最中に「あ、なんか買い忘れてるかも」と気がつきます。(モニタリング)
- リストを探すと、リストを忘れていました。そこで「お好み焼きを作るのだから、必要な材料から逆算して考えよう」と買い物リストを思い出そうとします。(コントロール)
- 買い物は無事に終わりましたが、なぜ「リスト」を忘れたのかを考えました(モニタリング)
最後に
メタ認知を具体的に考えてみると、普段から頭の中で生じていることで、何ら特別なことではないように思える。ただ、メタ認知を知識として整理された状態で理解していることによって、頭の使い方をもっと工夫することができるし、自分の思考を観察することで誤解や思い違いに気がつくことができるようになる。
新書でコンパクトにまとめられているので、学校で勉強に励む10代にはもちろんおすすめしたいが、これから学び直そうかなと考えている大人にも手に取ってほしい。まだまだ賢くなれる希望が持てる一冊である。
世界の教育の動向を抑えたい人にはこちらがおすすめ。
10-20代の嗜好と思考が垣間見れる。コンテンツの消費にメタ認知的行動が見て取れて面白い。