ウクライナへの軍事侵攻を受け執筆された本の緊急出版があちこちで見られるようになりました。世界経済、国際政治に関する本も急増しています。動き続ける歴史や経済を、文章というかたちでアーカイブしていくことも出版の大きな役割なのだなと感じながら今の状況を見ています。
これからどんな本が出てくるのでしょう。
2022年4月16日時点の予約受注実績からこの先発売になるタイトルを抽出しノンフィクションの予約ランキングを作成しました。(日販調べ:タイトル・発売日等今後変更になる可能性があります)
ランキング上位にはウクライナ、ロシアといったタイトルを冠した書籍が多く目に入りました。高額ながら注目を集めているのが中曽宏の『最後の防衛線 危機と日本銀行』です。リーマンブラザーズの破綻などの危機に対応した前日銀副総裁の現場の記録ということで話題になりそう。
また、『マイホーム山谷』は小学館ノンフィクション大賞受賞作です。
出版社 | 商品名 | 著者名 | 発売予定年月日 |
KADOKAWA | 『もっとすごすぎる天気の図鑑 空のふしぎがすべてわかる!』 | 荒木 健太郎 | 20220428 |
CCCメディアハウス | 『日本がウクライナになる日』 | 河東 哲夫 | 20220425 |
扶桑社 | 『中東問題再考』 | 飯山 陽 | 20220428 |
講談社 | 『関口宏・保阪正康の もう一度!近現代史 帝国日本の過ち』 | 保阪 正康 | 20220428 |
KADOKAWA | 『電子の社会』 | 松岡 正剛 | 20220421 |
筑摩書房 | 『ロシア文学の食卓』 | 沼野 恭子 | 20220512 |
日経BP | 『最後の防衛線 危機と日本銀行』 | 中曽 宏 | 20220518 |
ダイヤモンド社 | 『マッキンゼー 問題解決大全』 | チャールズ・コン | 20220630 |
小学館 | 『マイホーム山谷』 | 末並 俊司 | 20220426 |
新潮社 | 『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』 | 岩田 清文 | 20220518 |
では、これから出る本リストから注目作品を紹介していきます。
デジタル化が叫ばれる一方、書物をアーカイブするということが軽視されるような風潮を感じずにはいられません。過去、為政者だったり、コストだったり、そして災害や戦争、敵国による破棄。そういった記録破壊にライブラリアンたちがどう立ち向かってきたかというのが記された本です。
デジタル情報がテクノロジー企業に独占されていることも近年新たに持ち上がってきた課題でしょう。一企業の方針で情報が一瞬で失われる可能性も出てきました。本、そして情報に興味のある人必読の1冊。
ウッドショックという言葉は建築関係者だけでなく、一般人もよく耳にする言葉になりました。また、SDGs等の観点からも林業や森林再生といったテーマに注目が集まっています。こういったことから、樹木や植物に関する本の出版も目立っています。こちらは米国の育樹家による木と人間の歴史についての本。世界各地を旅しつつ、古い昔から人の暮らしを支えてきた樹木と人間の伝承を掘り起こして伝えています。
毎月何かしらの潜入記を紹介している気がします。今回はオンライン上の過激派コミュニティに潜入した著者によるルポルタージュ。著者がユダヤ人の女性ライターだというのも注目ポイントです。内容情報には調査報道機関として最近話題のべリングキャットやウクライナの文字も。
” ウクライナでテロリストの「マニフェスト」を広める役割を果たしていた男性とは、チャットで恋人関係を演じることで身元を特定し、国際調査集団「ベリングキャット」のメンバーに情報提供した。“
オンライン上で活発化した暴力的思想がどれだけ危険なもので、どう反撃出来るのか。他人事ではないテーマでしょう。*ベリングキャットについてはこちらの本が詳しいです。
2021年に朝日新聞を退社し現在は政治ジャーナリストとして活躍する著者が、朝日新聞政治部で目にした状況をつぶさに、実名で描いた内部告発ノンフィクション。
「吉田調書報道」の担当デスクとして、スクープからねつ造当事者に転落した裏側に何があったのか、今、大新聞はどうなっているのか。関係者は注目しておきたい1冊です。
ニーアル・ファーガソンは精力的に著作を送り出している歴史家でコロナ禍中も積極的な発言を繰り返しています。前作『スクエア・アンド・タワー』ではネットワークと階層制組織の二軸で世界を読み解きましたが(https://honz.jp/articles/-/45542)、今回は人類がここまで経験してきた危機に着目し、どうやってそれらに対処してきたのかに迫っています。「未曾有」と冠されがちな昨今の危機も、人類にとっては初めて直面したものではない、だとするとよりよい乗り越え方もあるのでは…という未来を考えるための歴史書です。
今回紹介した『攻撃される知識の歴史』は紹介文を読むだけでも、考える事が多い作品でした。
今の時代、本を残す最大の手段は「多くの人に読んでもらうこと」です。これからも沢山の本を紹介し、光を当てていきたいと、改めて気を引き締めさせられました。