本書は、ジェフ・ベゾス自らの言葉による初めての本として発売された。
ベゾスといえば、米アマゾンの創業者であり、世界一の資産家としても有名だ(『フォーブス』「世界長者番付」2021年版)。最近は、自身が保有する宇宙開発企業ブルーオリジンの初の有人飛行に参加したことでも話題となった。
本書は、パート1に、1997年のアマゾンのNASDAQ(米店頭株式市場)上場以来、ベゾスが毎年株主に送ってきた「株主への手紙」を掲載。続いて、「人生と仕事」と題するパート2にはベゾスのインタビューや講演の原稿を集めている。「ビジネスの考え方」や「意思決定の方法」、「未来予測」など、アマゾンを世界の頂点に導いたベゾスの思考を全編から読み取ることができる。
パート1の冒頭、97年の「長期がすべて」と題するレターに、ベゾスは「私たちはお客様にとことん集中し続けます。短期利益や目先のウォール街の反応よりも、長期的に市場リーダーとしての地位を固めることを考えて、投資判断を行い続けます」と書いている。
アマゾンが最初の数年間、膨大な赤字を出し続けたことは有名だ。あるとき、ベゾスはテレビ番組のインタビューで、ニュースキャスターから「あなた、利益(PROFIT)という言葉を正しく綴(つづ)れますかね?」と聞かれた。「ええ、もちろん。P-R-O-P-H-E-T(預言者)ですよね」というベゾスの答えにニュースキャスターは吹き出したが、これはある意味では、単なる冗談でもなかった。
当時、手元には潤沢な資金があったうえ、アマゾンが展開するのは固定費型ビジネスである。売上が一定レベルを超えればその先には膨大な利益が待っていると、ベゾスはわかっていたのだ。
はるか彼方の時間軸を見据える能力は、ベゾス最大の強みである。こうした長期的視点は、彼の宇宙旅行への関心からきているようだ。
69年、5歳のときにアポロ11号のアームストロング船長が月面に降り立つ姿をテレビで見たことが、ベゾスの出発点となった。高校の卒業式では、惑星に入植することで地球を救う計画についてスピーチし、「宇宙よ、最後の開拓地よ、いずれ会おう!」という言葉で締めくくった。
00年に設立したブルーオリジンの企業理念には、「ブルーオリジンは辛抱強く、一歩一歩、長期目標を追求していく」と記されている。また、同社の紋章には、「GRADATIM FEROCITER」というラテン語の言葉が用いられているが、その意味も「一歩一歩、猛烈に」だ。
本書のもう1つの主役は、ベゾスやアップルのスティーブ・ジョブズのようなイノベーターを次々と生み出してきた米国という国である。ベゾスは、米国について次のように語っている。
「アメリカという偉大な国家ではリスクを取って事業を起こす起業家を支え、失敗しても悪いレッテルを貼ることはありません」「この国は個人の才覚と自立の精神を尊重し、ゼロからものをつくる創造者を尊重します」「この国では、毎日がはじまりの日なのです」
今、ビジネスパーソンに最も薦めたい1冊である。
※週刊東洋経済 2022年2月5日号