久しぶりに各地の人出が話題になった年末年始となりました。出版業界は前年がコミック特需という状態だったので前年比では苦戦しそうですが、これからの動きが楽しみなところです。12月はどんな本が出て、売れていたのでしょう。
日販オープンネットワークWINから12月発売のタイトルとHONZのレビュー対象となるノンフィクションジャンルのタイトルを抽出しランキングを作成しています。(2021/12/1~2021/12/31の売上)
ノンフィクションジャンルでは『ママがもうこの世界にいなくても』が圧倒的な勢いを見せました。
21才のときにステージ4のガン宣告と余命宣告をされ、その後結婚、そして出産という激動の人生を送った遠藤和さん。21年9月に24才で人生に幕を下ろしました。亡くなる10日前まで、生と死を見つめて書き続けた日記がこちらです。結婚式の模様が日テレ系の『笑ってコラえて』で取りあげられたことで、話題になっていた本でしたが、発売後も感動の輪が広がり続けています。
順位 | 出版社名 | 書名 | 著者 |
1 | 小学館 | 『ママがもうこの世界にいなくても』 | 遠藤 和 |
2 | 新潮社 | 『ヒトの壁』 | 養老 孟司 |
3 | ワニブックス | 『世界のニュースを日本人は何も知らない(3)』 | 谷本 真由美 |
4 | 講談社 | 『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-197』 | 池上彰/佐藤優 |
5 | 文藝春秋 | 『無敵の読解力』 | 池上彰/佐藤優 |
6 | 東洋経済新報社 | 『GAFA next stage』 | スコット・ギャロウェイ |
7 | ダイヤモンド社 | 『Invent & Wander――ジェフ・ベゾス Collected Writings』 | ジェフ・ベゾス |
8 | 河出書房新社 | 『イベルメクチン』 | 大村 智 |
9 | 宝島社 | 『誰も書けない「コロナ対策」のA級戦犯』 | 木村 盛世 |
10 | 中央公論新社 | 『北条義時-鎌倉殿を補佐した二代目執権』 | 岩田 慎平 |
11 | ビジネス社 | 『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』 | 副島 隆彦 |
12 | SBクリエイティブ | 『人類はできそこないである 失敗の進化史』 | 斎藤 成也 |
13 | 講談社 | 『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』 | 酒井 隆史 |
14 | 早川書房 | 『NOISE 上: 組織はなぜ判断を誤るのか?』 | ダニエル・カーネマン他 |
15 | ビオマガジン | 『オタクが予測する2060』 | 岡本 公功 |
16 | 光文社 | 『オリックスはなぜ優勝できたのか』 | 喜瀬 雅則 |
17 | 中央法規出版 | 『落合陽一34歳、「老い」と向き合う』 | 落合 陽一 |
18 | PHP研究所 | 『邪馬台国とヤマト建国の謎』 | 関 裕二 |
19 | 筑摩書房 | 『教養としての仏教思想史』 | 木村 清孝 |
20 | 文藝春秋 | 『孤独の宰相』 | 柳沢 高志 |
他にも気になる新刊がたくさん!12月発売の気になった本を少しご紹介していきます。
年末には民間人の宇宙旅行が大きな話題となりました。金額を聞くとびっくりしますが、宇宙旅行の現実味はどんどん高まっています。そんな中マジメな観光ガイドとして発売されたのがこちら。なんと、太陽系の観光ツアー代理店として太陽系旅行を案内しています。旅の準備や生活、そして気候や観光スポットなど、一般的な旅行ガイドのような項目で科学知識を交えながら旅行をプロデュースしてくれます。
コロナ禍中に一気に身近な存在となったUber。その創業者の軌跡は勝ち続けるために手段を選ばぬ闘いの連続でした。好戦的な企業文化は急激な台頭の一方各地に軋轢も残しました。創業者トラビス・カラニックは2017年ついにCEOの座を奪われます。創業者の半生を描いたノンフィクション。
年末発売にもかかわらずすでに大きな話題になっています。過激主義組織の研究者である著者が、実際に12の過激主義組織に潜入し、その内情をルポするという刺激的な内容。Qアノン、ISISのハッカー集団、ネオナチなど、過激主義者がどうやって「普通の人々」を取り込むのかを描いています。
コロナによって大きな打撃を受けたひとつが風俗業界でした。超濃厚接触が必要となる仕事のため、感染ルートとして名指しされ追い込まれた業界は、弱者のセイフティーネットという側面も持っています。この世界に生きる人々がどう危機と向かい合ったのか、吉原、鶯谷、ススキノ、伊香保温泉、梅田、飛田新地、天王新地という各地の関係者のコロナ禍ドキュメント。
ほぼ同時期には『ルポ西成』で話題になった著者がホームレスとともに路上生活を送った模様を描いた『ルポ路上生活』も発売されています。貧困の実態について考えさせられるルポが立て続けに発売されました。
12月も北条義時、NHK大河ドラマ関連の出版物が相次いでいます。ドラマガイドの滑り出しも上々、今後の鎌倉殿関連書の動きには期待が持てそうです。これまでに出た新書では『北条氏の時代』(本郷和人)、『頼朝と義時』(呉座勇一)などが好調に動いています。この『北条義時』はそれに次ぐ売上となりました。それぞれ特徴もあるので、比べて読んでみても面白いのでは。
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年が明け、コロナウイルスが再び猛威を振るいはじめました。まだまだ落ち着かない時期が続きそうですが、社会派のルポなども増えて来ました。新しい年にどういったブームが来るのか、どんな新技術が発表されるのか、本を通じた出会いが多いことを願っています。