五輪の話題もようやく落ち着いた。会場となった大都市「東京」の実像について、考えてみるのも良いだろう。
150人の聞き手が150人の「東京にいる人、いた人、いたことのある人」に聞いた人生が1216ページの『東京の生活史』になった。聞き手は公募、語り手は誰だかわからない場合も多く、読み手は何の情報もないまま読み始める。年齢も性別も2人の関係性もわからないが、何か「東京」に関係があることは徐々に明かされていく。こんな途方もない試みの本なのに、一切退屈せずに読み終えた。
1人目は終戦で上海から帰国した年配の婦人で、都内などでピアノとともに生活した日々を語る。近所の人なら間違いなく誰だかわかるだろう。
戦後生まれで材木屋から俳優になった人、反差別運動をやっていた両親を持つ1980年代生まれの女性と差別問題、祖母の縁で中国からやってきて中華料理屋を営む男性の幸福感など、どの人の語りもドラマのようだ。
本書には若者から老人までの、その人の「東京」が映し出される。この本は間違いなく歴史書だ。できれば国勢調査のように数年に一度出版してもらえないだろうか。
離島ではないが、東京23区にも「島」はある。『都会の異界』はあまり知られていない都内の「島」を案内する。
著者は四方が隅田川と運河で囲まれた佃島に住む。地図をみると間違いなく島だ。都会にいながら田舎に住みたいと、数年前に居を構えた。東京駅まで自転車で10分の好立地なのにオフィス街とは違う時間が流れている。中古の一戸建てが1980万円で買えるとは。高層マンションを背景に漁船の船溜(だま)りや井戸があり、東京で最古の盆踊りが残るこの地はまさに異界だ。
そんな、都内にある10の「島」の不思議な日常が紹介される。これもまた「東京の生活史」だ。行きたい、いや、住んでみたい。
コロナ禍で身を守る方法を考えたとき、住む場所を選ぶことの重要性を痛感した。都道府県の格差だけでなく市町村、区によっても対応が違う。これは病気に限ったことではないだろう。
『東京23区×格差と階級』では都心・下町・山の手を分け、所得額や世帯構成、職業などを「国勢調査」や「住宅・土地統計調査」といったデータから可視化し、区ごとに比較していく。圧巻は第4章。東京23区を10のグループに分け、前章までに「中心と周縁」「東と西」の空間構造を明らかにした上で各区の仕組みを詳しく見ていく。
住みやすさ暮らしやすさはライフステージによって違う。本書は心地よく暮らすための指針になりそうだ。(朝日新聞2021年10月27日掲載)