ベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の著者である橘玲氏が、最新の心理学と脳科学の観点から「わたし」とは何かを説く一冊だ。
人の性格は無意識のうちに決定され、あらゆる行動の基盤となる。それらを「内向的/外交的」や「楽観的/悲観的」など8つの項目に定義していく。
たとえば経済的に成功者が多いのは内向的な人種である。人には最適な覚醒度があり、それぞれの個体で異なる。たとえば刺激に対して敏感な人は、最適な覚醒度が低いため強い刺激を避ける行動をとる。クラブやパチンコなど大きな音がする場所は苦手であり、図書館のように落ち着いた色調の静かな空間を好む。たくさんの人が集まるパーティーや、はじめての人との会話でもすぐに疲れてしまうのもこのタイプだ。
逆に覚醒度の高い外交的な人は、強い刺激を求める傾向にあるため、バンジージャンプや激辛ラーメンなどに挑戦する。極端に外向性指数が高くなると、覚醒度を引き上げるために死亡率の高いスカイフライングなどの刺激を求めるようになってくる。アメリカの人種別年収分布(2018年)によると、最も「内向的」である傾向のアジア系が8万7000ドル(約900万円)で、白人の6万6000ドル(約670万円)よりも30%以上上回っている。
また8つの項目のうち「共感力」があるが、これは「相手と感情を一致させる能力」のことだ。男女の違いでいえば女性は共感力が高く、男性は共感力が低い、という明らかな前提がある。
ただし博愛主義者は男女ともに共感力は低い。アインシュタインは第二次世界大戦で日本に投下された原爆に驚愕し、世界平和を目指す多くの活動を行う博愛主義者で知られる。しかし彼が妻にあてた通達文では「私が要求したときは、話を中止すること」「自宅で同席を控えること」などの項目がズラリと列挙され、妻が項目を破ることを許さなかった。(のち2人は離婚する)またガンジーにしても、妻や2人の子供達から「性格は残酷だった」と言われており、聖女マザー・テレサですら、彼女が設立した孤児院への取材で、冷淡な扱いが批判されている。
さらに「愛は四年で終了する」など残酷とも思えるような事実を突きつけられる。ただ本書は身も蓋もない結果ばかりを提示しているわけではない。たしかに日々周りばかりを気にすると疲れてしまうが、掲載される項目の特徴をよく眺めていけば、世の中プラスとマイナスの作用が同時に進行しているだけかもしれないと思えてくる。
不透明な今の時代では、これらの事実を受け入れることで羅針盤になりえるかもしれない。悶々と悩むより、自分自身に意識を向けることで生きやすくなれる一冊だ。
こちらはkindle版。書籍版のカバービジュアルは、装幀家の鈴木成一氏が手掛けた。銀箔を使用するなど世界感が表れている。
近年の代表作『『言ってはいけない 残酷すぎる真実』
こちらは文庫版が登場。前回のレビューはこちら