私が小説家の秘書として雇われて出版業界に入ってから35年になる。その間、あっという間に超売れっ子になった人、長い下積みのあとブレークした人、新人賞受賞作だけ注目された一発屋などいろいろな小説家を端から見てきた。
小説家という仕事は書いた物語が商品になると認められて初めて金になる。“食えない” “食うのがやっと” “稼げる”という三種類の小説家がいて、“稼げる”の中に一部の売れっ子と大多数のそうでもない小説家が存在している。
鈴木輝一郎はキャリア30年の歴史・時代小説家だ。エッセイと併せると40作以上の著作を持つ。本書の中で自分のことを「かわりはいくらでもいる作家」だと、自虐ではなく冷静に分析している。
だが彼は小説家としてある分野のパイオニアであることは間違いない。
30年前「作家自らが書店に出向き営業をかける」ことは全くなかった。サラリーマン生活を経て小説家になった鈴木にとって「営業」は当たり前のこと。しかし当時は作家が書店に呼ばれるのはサイン会くらいしかなかった。当然、人気作家だけしか声がかからない。
最初は眉を顰められたこの行為が、珍しくなくなったのは10年くらい前からか。「本が売れない」と叫ばれるのと同時に、小説家の大量生産時代に突入したからだと思っている。書店に作品を置いてもらうためには手段を選んでいる場合ではなくなった。鈴木輝一郎が生き残っているわけは作品の質だけでなく、本人の営業努力でもあるのだ。
本書には職業としての小説家の処世術から、経済的な問題まで網羅されている。彼の主宰する小説講座からデビューした新人の生き残り率が高いのは、書き方だけでなく小説家で食べていく方法をおしえているからだろう。小説家を志す人、小説家になるための切符(新人賞)を手に入れた人には必読の書である。(週刊新潮9/16より転載)
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様々な「作家になりたい」シリーズを書いている鈴木輝一郎だが、この本がすべての始まり。20年前にこの本を書いているというのは立派だ。
少し前までこの手の話は先輩作家が飲み屋で教えてくれたものだけど。大沢さんのアドバイスはとても具体的です。
読めばその通りだと思う。できるなら。