久しぶりに江戸前寿司について、アップデートされた情報満載の本が出版された。
江戸前寿司に関しては、その昔は北大路魯山人の『握り寿司の名人』(1952年)、最近では川路明の『江戸前にぎりこだわり日記―鮨職人の系譜(御馴走読本)』(1993年)が極めつけだった。その後は、寿司ブームに乗って似たり寄ったりの本がたくさん出版されたが、どれも物足りなかった。有名な店をただ紹介しているだけだから。
ミシュランガイド東京2008以来、たくさんの星付きの寿司屋が登場したが、個人的には、カウンター越しのご主人とのやり取りが妙である寿司屋に星をつけるのにはかなりの違和感がある。ご主人との相性の良し悪しが大切な寿司屋は、大きなフロアで店構えの豪華さを競うフレンチレストランと同列に比較することはできないのではないかと思う。
実際、長年、ミシュランで三星を獲得してきた『鮨さいとう』は、馴染みの客だけで通年で席が埋まってしまうことから、ミシュランの星を返上して会員制に移行してしまった。
本書で詳しく解説されているように、ここ数年、空前のグルメブームの中で、江戸前寿司のあり方は大きく様変わりしてきた。高級なお酒に合わせた付け出しが多くなり、お好みの握りがなくなりコース一種類だけになり、その結果、有名店では二回転するのが普通になっている。予約も数ヶ月或いは一年前からするのが普通になっている。
食べたくなった時にふらっと立ち寄って好きなネタを幾つか握ってもらうという、江戸前本来のスタイルから、高級フレンチレストランのように事前に予約して、高級酒と一緒に決まったコースを頂いて帰るというスタイルに大きく変容しているのである。それに伴って、一食の値段も飛躍的に跳ね上がっている。
こうした近年の傾向を踏まえた上で、寿司評論家の第一人者の早川光氏が、コース1万8千円以下で、3万円超の高額有名店に勝るとも劣らない東京の名店10店を、鮮明なカラーグラビアと共に紹介している。寿司屋は、店構えを見れば味の良し悪しがほとんど分かってしまうので、ミシュランガイドのように写真がないと、本当に行くべき店なのかどうか分からないのである。
本書を読んで、ここで紹介されている10店のうちのひとつに行ってみたが、これは全部を試してみないといけないと確信した。新型コロナ禍の中ではあるが、一人でひとつずつ回ってみたいと思う。