東日本大震災から10年。10歳から20歳になるのと50歳から60歳になるのとでは体感時間の長さや意味が違うかもしれないが、それでも誰もが等しく10歳歳を取った。
「あの日のわたしへ手紙をつづる」と副題が付された本書は、SFやファンタジー小説のようなタイムワープができたら、という設定がなされている。あの大地震と原発事故の被災者であり、年齢も性別も違う31人が、あの日の自分に手紙を書いている。
遺族として、助けてあげられなかった祖父母や両親、兄弟を思う。
その後の生活が大きく変わってしまった子どもや自分、仲間を思う。
原発災害に向き合い、思い描いてきた未来が一瞬で奪われた後でも、いまを生きていることを誇りに思う。
地震や津波に向き合って、人生の大きな分岐点となった瞬間を思い返し、これからの自分に発破をかける。
本書は東北学院大学の金菱清教授のゼミで、震災直後から行われてきた「震災の記録プロジェクト」の8冊目にあたる。自らが被災者である学生たちが、同じ被災者を取材して彼らの言葉を語り継ぐ。
シリーズの1冊目は、震災直後、2012年に出版された『3・11慟哭の記録』だ。取材された71名の被災者も、話を聞いて書き起こした大学生たちも、心身ともに血まみれの状態だったと思う。
17年、亡き人への手紙を集めた『悲愛』では居なくなってしまった「あなた」への悼みが溢れていた。
そして今回の『永訣』では10年前の自分へ手紙を書くことで、後悔よりも肯定が、喪失感より未来の希望が綴られている。もちろん、哀しみの続きを生きている人もいる。
10年をひと区切りとすることに何の意味もないかもしれない。だが小学生が大学生となってこのプロジェクトに参加していること、それこそが新しい可能性ではないだろうか。永訣とは永遠の別れのことだが、このプロジェクトは続いてほしい。(週刊新潮4月1日号より転載)
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既刊本を年代順に並べてみました。