新型コロナ禍でのマスク不足対策で大成功を収め、世界的な脚光を浴びたのが、ジェネレーションYと呼ばれる若い世代を代表する、台湾の「天才デジタル担当大臣」である。そんな39歳のオードリー・タンが、本当の自由とは何か、どうしたら手に入れることができるのかを、「本書を手にした日本のみなさんへ」と語りかけたのが本書だ。
オードリーが表象するものは、あらゆる既成概念からの逸脱である。プログラミングを独学し始めたのは、幼い頃のことだった。その後、学校に馴染めず14歳で中学校を退学、19歳のときに米シリコンバレーで起業、アップルなどの顧問を歴任し、35歳という史上最年少の若さで蔡英文政権にデジタル担当大臣として入閣した。
24歳のときに、自身がトランスジェンダーである、すなわち生まれた時の性別が自身の性同一性と異なることを公表する。その後、旧名の「唐宗漢」から現在の「唐鳳」に改名し、英語名も「オードリー」とした。
「IQ180」と伝えられ、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』で、グローバル思想家100人のうちの1人にも選出された。「徹底的な透明性」を理念に掲げており、行政のオープン化を進める立場から、メディア取材は一切断らないが、取材内容はすべて公開する。
オードリーは、自由にはネガティブなものとポジティブなものがあると言う。「ネガティブ・フリーダム」は否定的な意味ではなく、「個人として何かから自由になる」という消極的な自由のこと。これが自由への第一歩だ。
「ポジティブ・フリーダム」は、「自分だけでなくほかの人も解放し、自由にしてあげる」という積極的な自由。自分の可能性を力に変え、その力を誰かのために役立てる。
そして、自分が手にした自由を他者と共有し、すべての人を自由にしようとする後者の自由こそが、われわれが目指すべき道なのだと言う。
オードリーは、そのロードマップを、「格差」「ジェンダー(性差)」「デフォルト(標準)」「仕事」からの自由として、丁寧に説明する。そのうえで、本当に自由な人とは、「ポジティブ・フリーダムを体現している人」だと言う。
つまり、自分が変えたいと思っていることを変えられる人、起こしたいと思っている変化を起こせる人こそが、自由な人なのである。
そこで最も重要になるのは、国家からAI(人工知能)、ネットまで含むあらゆる「権威」に脅かされない、自由のサステナビリティ(持続性)だ。そのためにオードリーが訴えるのが「連携」である。
SDGs(持続可能な開発目標)の17番目「パートナーシップで目標を達成しよう」にフォーカスし、新しい共有価値を作り上げるためには幅広いセクター間の連携が必要だと言う。そこに垣間見えるのは、誰一人として取り残さず、多様性を受け入れようとする、優しい眼差しだ。
最後に、これまで経済成長にしか関心がなかった40代以上に対しては、気候変動や環境問題に配慮する習慣が身についている若い世代に学び、世代間で連帯したらどうかというのが、オードリーからのアドバイスである。
※週刊東洋経済 2021年1月16日号