本書を読んで、まずこれはとても正直な本だと思った。未来予測本にありがちな過度な楽観論を振りまく訳でもなく、かと言って日本人特有の過度な悲観論でもない。煽らず卑下せず、必要十分なことが淡々と書かれている。
そして、本書は、とにもかくにも還暦を迎えた私などより若い人に是非読んでもらいたいと思う。と言うより、若い人は絶対に読まなければいけない必読書である。
著者の成毛氏自身、「みなさんが現在60代なら『逃げ切れる』かもしれないが、50代前半以下ならば2040年に向けて備えが必要だろう」と言っている。
多分、本書の読者は、旧日本軍の失敗の本質に迫った歴史的名著『失敗の本質』を、敗戦前に読んでいるような感じを受けるのではないか。2040年の未来から現在をバックキャスティングで見た感じとでも言えば良いだろうか。
客観的に見て、日本の未来は決して明るくない。一番確実な未来予測である人口動態から見ても、日本の人口減少はポイント・オブ・ノー・リターン(回帰不能点)をとうに越えてしまっている。しかも、南海トラフ地震、首都直下型地震から大型台風まで、自然災害のリスクは目白押しである。
そうした中で、本書には、5G・6Gを始めとするテクノロジーの進化が、どのように日本の未来を明るくしてくれる可能性を秘めているのかについて、取り上げられた課題のひとつずつについて簡潔に記述されている。
本書がただの未来予測本ではないところは、「それならあなたはどうしたら良いのか?」について、次のようにはっきりとした結論が書かれていることだ。
それでは、あなたは、どうすればいいのか。最後に、ひとつアドバイスをしよう。国を忘れることだ。日本国民であることを忘れろとか、国籍を変えろとかそういう話ではない。『あなたの力で国を変えよう』などと間違っても思うなということだ。・・・今、これを読んでいるあなたは、国を忘れて、これからの時代をどうやって生き残るのかをまず考えるべきだ。どうすれば幸せな人生を送れるかに全エネルギーを注ぐのをオススメする。
このアドバイスをどう受け取るかは、人それぞれだと思う。日本の未来について投げやりだと思う人もいるかも知れない。だが、評者はこのアドバイスは、著者なりに非常に良く考えた、とても親切なものだと思う。なぜなら、人というのはまず自分が幸せにならずして、他人を幸せにすることなどできないのだから。
二度の世界大戦に見舞われた激動の20世紀前半を生き抜いたフランスの哲学者アランは、人間というものは、幸福になろうとしないと幸福になれない、気分というのは放っておくと落ち込むのが当然だと言う。そして、幸福になれるか否かは、心と体の使い方で決まるのだとして、その著者『幸福論』の中で次のように言っている。
悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。気分にまかせて生きているひとはみんな、悲しみにとらわれる。否、それだけではすまない。やがていらだち、怒り出す。・・・ほんとうを言えば、上機嫌など存在しないのだ。気分というのは、正確に言えば、いつも悪いものなのだ。だから、幸福とはすべて、意志と自己克服とによるものである。
つまり、人はまず自分の生き方を見直すところから始めなければならないのである。そうやって日本人一人ひとりが幸せに生きる力を身に付けること、それしか日本が生き残る道はないのではないかというのが、著者からのメッセージなのだと思う。