著者のタラ・ウェストーバーは1986年生まれの34歳。現在ハーバード大学公共政策大学院上級研究員で歴史家。エッセイストでもある。
彼女はアイダホ州クリフトンで父親の思想が強く反映された反政府主義を貫くサバイバリストのモルモン教徒の両親のもと、7人兄弟の末っ子として生まれた。
公立学校へは通わせてもらえず、家庭内で科学や医療を否定した偏った教育を受けて育った。父の事業の廃品回収とスクラップの仕事を手伝わされ、危険な作業を強いられた。
母は薬草のオイルや軟膏を使った民間療法による助産婦として徐々にその地域の信頼を獲得していく。
一人の兄が親を捨てて大学に入学したことでタラも勉学に対する強い欲求が芽生える。猛勉強のもと自宅学習者(ホームスクーラー)を受け入れるブリガム・ヤング大学へ入学が叶った。だがどの授業も初めて聞く話ばかり。最初は勉強の仕方もわからなかったタラが目を瞠るような変貌を遂げていく。
教育は重要だ。その「教育」自体が特殊なら何が起こるのか。タラの両親は自分たちの思想を教え込もうとした。その地域で仲間と永久に暮らし、彼らと同じ生活を続けるなら問題はなかったかもしれない。
タラは一種の天才なのだろう。彼女の才能は大学入学後わずか4年で開花する。ケンブリッジへの留学、その後ハーバードで博士号を取得するほどの聡明さを持っていた。
しかしこの間も彼女を悩ませたのは家族との関係だった。父や兄弟の執拗な暴力、偏った思想による精神的虐待の繰り返しは読むのが辛くなるほどだ。それでも彼女は完全には家族を切り離せない。何度もかつての環境に戻ろうとする。その気持ちが切ない。
タラにとって大学入学が大きな変革の始まりだった。だがそれ以上に社会から教わる知識を得ることで強くなるのだ。本書を書き上げたことは一つの区切りにもなっただろう。彼女の人生に幸あれと願う。(週刊新潮12月17日号より転載)
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元・東京ガールズコレクションのプロデューサーの体験記。恐ろしいほどの臨場感。
10月に公開された映画の原作小説。身体の弱かった子を助けると信じて宗教に嵌っていく両親と、周囲の目に晒される少女の思いを芦田愛菜が見事に演じていた。