このコーナーでは「これから出る本」として、予約本ランキングを発表していますが、直前に出るなど必ずしも売れた本と予約数が比例するわけではありません。そして、世の中に対して発表されるランキングでは、上位にノンフィクションが入ってくることは少なく、ランクインしてくる銘柄もある程度発売から時間が経ったものがほとんどです。
では、先月出た本(ノンフィクション)というランキングを作ったらどんなランキングが出来るのでしょう。ということで調べてみました。
日販オープンネットワークWINから9月発売のタイトルとHONZのレビュー対象となるノンフィクションジャンルのタイトルを抽出しランキングを作成しました。(2020/9/1~2020/9/30の売上)
上位は手にとりやすさもあって、新書が多く並んでいます。内容は「コロナ後の世界・経済」について予測や提言をする内容のものが多くランキングしてきました。
そういった中で異彩を放つのが『LIFE SPAN:老いなき世界』でしょう。ランクインした中ではもっとも価格が高かったのもこちら。HONZでもすでにレビューされていますが、老化のメカニズムを捉え、「病気」として「治癒」出来るモノであるという画期的な研究結果を提示しながら人類の今後を考えた、生命科学の本です。
”老化”をテーマにしているため、年輩読者が多いかと想像していましたが、読者は80%が男性で40代・50代の読者がもっとも多い世代となっています。この読者が何を考え、どう「老化」に立ち向かおうとしているのかも興味深いところでしょう。
出版社名 | 書名 | シリーズ名 | 著者 | |
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1 | 文藝春秋 | 『反日種族主義との闘争』 | 李栄薫 | |
2 | 文藝春秋 | 『感染症の日本史』 | 文春新書 | 磯田道史 |
3 | 新潮社 | 『絶対に挫折しない日本史』 | 新潮新書 | 古市憲寿 |
4 | 扶桑社 | 『「反日」異常事態』 | 扶桑社新書 | シンシアリ- |
5 | 集英社 | 『人新世の「資本論」』 | 集英社新書 | 斎藤幸平 |
6 | 河出書房新社 | 『武漢日記』 | 方方 | |
7 | 小学館 | 『世界で最も危険な男』 | メアリ-・トランプ | |
8 | PHP研究所 | 『未来を見る力』 | PHP新書 | 河合雅司 |
9 | 文藝春秋 | 『地名の世界地図』 | 文春新書 | 21世紀研究会 |
10 | 祥伝社 | 『不動産激変』 | 祥伝社新書 | 牧野知弘 |
11 | SBクリエイティブ | 『捨てられる宗教』 | SB新書 | 島田裕巳 |
12 | 宝島社 | 『疫病の日本史』 | 宝島社新書 | 本郷和人 |
13 | 東洋経済新報社 | 『LIFESPAN 老いなき世界』 | デビッド・A・シンクレア 他 | |
14 | 祥伝社 | 『女たちの本能寺』 | 祥伝社新書 | 楠戸義昭 |
15 | 講談社 | 『証券会社がなくなる日』 | 講談社現代新書 | 浪川攻 |
16 | SBクリエイティブ | 『嫌われるジャーナリスト』 | SB新書 | 望月 衣塑子、田原 総一朗 |
17 | 講談社 | 『捨てられる銀行4 消えた銀行員』 | 講談社現代新書 | 橋本卓典 |
18 | 文藝春秋 | 『日本 VS 韓国』 | 池上彰・他 | |
19 | 朝日新聞出版 | 『コロナと生きる』 | 朝日新書 | 内田樹・岩田健太郎 |
20 | 中央公論新社 | 『中野京子の西洋奇譚』 | 中野京子 |
ランクインしていない中にも興味深い本は盛り沢山。ここからは9月発売の本からもっと注目していきたいタイトルをいくつか紹介していきます。
考古学というと、どうしても冒険家のような姿で発掘道具を持っている…という画を想像してしまいますが、現代のインディ・ジョーンズが駆使しているのは「人工衛星」。単純に画面に映っている遺跡を見つける、というわけではなく植生の違いから地下の変化を予測するといったことをしているそう。高解像度の映像が入手出来るようになったことでこういった事が可能になったのです。著者はこの分野の第一人者、最先端の技術や大発見、そしてこの技術が世界にとって必要となる理由が余すところなく語られています。
経済の分野では「資本主義」について考える本がよく動いています。一方で、環境問題は深刻な状態にあると言われており、このバランスをどうとっていくかは大きな課題です。この著者は「経済が成長しても資源は枯渇しない」と投げかけます。テクノロジーが資源を使わない方向に進化しているため、成長と資源消費は切り離されたと解きます。果たしてその前提に立つ未来予想はどうなっているのでしょう。
生物学ではこちらに注目。人は社会に属し、その集団への帰属意識をもって生活していますが、その集団外の人を敵視するということをしばしば行います。動物たちも群れを作りますが、他の生物と比べたときどこが同じで、どこが人間特有のものなのでしょうか。生物学者が人間社会の「危うさ」を読み解きます。
コロナ禍の中、注目を集めた人というランキングを作ったらまずこの人が出てくるでしょう。と言って良いくらい、日本のメディアでの登場が増えているオードリー・タン。IQ180で中卒。トランスジェンダー。まさに今の時代を体現するような天才はどんなことを考え、普段どんな生活をしているのでしょう。
発売が9月末でしたが、その直後からハイペースな売上を見せています。今注目しておきたい1冊。
1918年から1945年、第一次大戦終結から第二次世界大戦のあいだに第三帝国を訪れた有名無名の人々がそこで何を見て何を感じたのか。今で言えばSNSでのつぶやきのような感想や意見が「ファシズムの台頭」の様子を浮かび上がらせます。
歴史的な書物ではなく、市井の人々だからこそ残せた生々しい記録は、今の時代を生きる私たちが気づいて、引き返すべきポイントにも気づかせてくれるものなのかもしれません。
『無敗の男 中村喜四郎全告白』で注目を集めた著者が、地方を旅しその首長選の現場を描いた異色ノンフィクション。今、日本国内も政治が大きく動いています、地方の時代と言われる中、地方の選挙の実態はどうなっているのか、地方自治体の本音は…など政治について改めて考えてみたくなる1冊が発売になっています。
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突然の首相交代、アメリカでは混迷を極める大統領選挙の中、トランプ大統領のコロナウイルス罹患のニュースも…世界はこれからどうなるのか。様々な本が出てきています。手にとって読んで、自分の頭で考える。それこそノンフィクション読書の醍醐味です。充実した読書の秋をお過ごしください。