日本は移民がつくった国である。約3.8万年前の対馬ルートを皮切りに、3.7万年前の沖縄ルート、2.5万年前の北海道ルートなどいろんな人々が渡ってきて日本列島に住み着いた。それが我々の祖先である。移民がつくった国なのに、なぜ、現在の日本の人々は移民という言葉に過剰反応するのだろう。本書は、少子高齢化に伴う人口減少を日本の最大の危機と捉え、既に外国人なしでは日本の経済が回らない現状を踏まえて、他の先進国同様に移民政策を構築して日本の社会のレジリエンスを多様な面で高めてくれる人材を広く海外から迎え入れる処方箋を具体的に述べたものである。
本書は7章にわかれている。まずコロナショックで見えた日本の弱点が語られる。例えば、陸上自衛隊でいちばん人数が多い世代は実は50歳代だそうだ。高齢化がそこまで進んでいるのかと驚きを禁じ得ない。続いて日本語など外国人が直面する壁や、2018年末に政府が打ち出した新しい外国人受け入れ政策のキーワード、「特定技能」をめぐる課題が平易に語られる。移民政策といえば、よくドイツが引き合いに出されるが、著者はドイツも30年間の政策不在という点では日本と類似していると指摘する。ドイツが移民法を改正し移民の社会統合へと舵を切ったのは2004年のことだった。そのなかで、移民には統合コース(言語コース基礎、上級それぞれ300時間、オリエンテーションコース100時間)の受講が求められるようになった。統合コースの受講者は約18万人、学習を提供する事業所は市民大学を中心に1443に上る。外国人受け入れの成功へのカギは、政府の明確な方針、自治体の積極姿勢、日本語教育、NPOとの協働、住民の意識改革、外国人を地域社会に取り込む工夫、日本社会の外国人への歩み寄りの7つだ。そして今後の外国人受け入れのステップとして、著者は4段階を提示する。2018年の入管法の改正を第一段階とすれば、第二段階は定住が前提となる。第三段階は外国人の活躍促進がテーマとなる。最後の第四段階はイノベーションが起こる。
著者の主張はその通りだと思うが、僕は、移民を論じる前に出生率の向上に全力で取り組むべきだと考えている。少子化対策も30年以上の政策不在が続いている。私見では、わが国の少子化の根本原因は性差別にある。明治時代の「家制度」に加えて、戦後の日本社会が製造業の工場モデルに過剰に適応して「男は仕事、女は家庭」という性分業を進めてきたことが発端だ。そのために、配偶者控除や3号被保険者という制度をつくり「3歳児神話」を喧伝してきた。その結果は「121位ショック」(世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で153か国中日本は121位となった)という形で表れている。先進国で一番性差別が激しく、家事・育児・介護が女性の仕事とみなされるような社会でどうして女性が子どもをたくさん産もうとするだろうか。フランスのように子育てに優しい政策を総動員して出生率を2.0前後まで引き上げた国もある。わが国は、配偶者控除や3号被保険者制度を廃止してクオータ制を導入するなど、まず、性差別の撤廃に注力すべきではないだろうか。性差別を温存したままで外国人を大量に受け入れれば、男性、女性、外国人という3層構造が生じることは目に見えている。それでは、社会が不安定になるだけではないか。
ともあれ、歴史を見ると、人口が減って栄えた国や地域は一つもない。わが国は、今こそ移民を含めた人口問題に逃げずに立ち向かわなければならない。