『思考の整理学』で一躍有名となった外山滋比古さんが逝去されました。文庫版は250万部を超える大ベストセラーになり、今でも毎年毎年版を重ね続けています。今回はこちらについて見ていきます。
『思考の整理学』の刊行は1983年。1986年に文庫化されていらい長い間読み継がれてきた本でした。そんな動きが変わったのが2007年のこと、岩手県のさわや書店に「もっと若いときに読んでいれば…」というPOPが立ったことがきっかけで話題となり、全国的なベストセラーとなります。自分の頭で考えるということを説く著者のメッセージは多くの人に支持され、東大生・京大生が最も読んだ本としても話題となりました。今でも毎年多くの人の手に取られ続けているロングセラーであり、大ベストセラーです。
過去3年間の月次の売上動向を見てみます。(日販オープンネットワークWIN調べ)
直近で最も大きな売上を記録したのは2018年11月でした。当時、中日にドラフト1位指名された根尾昂選手が愛読書と紹介したことから話題になり、ブームとなりました。
そういった話題がない時にも、毎年3月・4月には必ず売上を伸ばす傾向にあります。大学生の持つべき定番の1冊になっているのだとも考えられます。
続いて、読者層を見てみましょう。(過去3年の購入者)
非常に幅広い層に読まれている事がわかりますが、お子さんを持つ年代でもある40代・50代の女性が最多となっています。年齢を細かく見ていくと、19歳・20歳というところに大きな山が出来ている事もわかりました。
テレビ等で大きく取り上げられたタイミングでは、特に男性の年配層が大きく動いています。
併読本ベスト10を見てみます。『思考の整理学』を過去3年以内に購入した方が、2020年1月以降購入した本のランキング上位商品となります。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 | ブレイディみかこ | 新潮社 |
2 | 『鬼滅の刃 [19]』 | 吾峠呼世晴 | 集英社 |
3 | 『還暦からの底力』 | 出口治明 | 講談社 |
4 | 『ペスト』 | アルベ−ル・カミュ | 新潮社 |
5 | 『AX アックス』 | 伊坂幸太郎 | KADOKAWA |
6 | 『FACTFULNESS』 | ハンス・ロスリング | 日経BP |
6 | 『鬼滅の刃 [14]』 | 吾峠呼世晴 | 集英社 |
6 | 『大河の一滴』 | 五木寛之 | 幻冬舎 |
9 | 『空気を読む脳』 | 中野信子 | 講談社 |
9 | 『鬼滅の刃 [15]』 | 吾峠呼世晴 | 集英社 |
大ベストセラーということで多くの人に読まれている結果、『鬼滅の刃』なども入って来ています。そういった中で1位になったのは『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でした。
それでは併読本の中から注目の数点を紹介します。
日本の敗戦は研究結果から事前に導かれていたものでした。しかし、そういったデータや仮説を持ちながらも日本は開戦します。客観的な分析はいかにして無視されたのか、そのプロセスを辿ると日本的組織の構造的な欠陥が見えてきました。今の企業、組織においても同じような事が起こっている。と読んだ人は次々に声を上げています。発行から時が経っていた作品ですが、新版となったことで話題が再燃しています。
コロナ禍を経て、人類はどうなっていくのか。予測と対策の本が増えてきました。その中でも最も売れているのがこちらです。ジャレド・ダイアモンド、マックス・テグマーク、リンダ・グラットン、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイ、ポール・クルーグマン という日本でも人気の著者へ緊急インタビューを行って、世界の未来を行く末を考えています。日本国内を中心に各界の第一人者から話を聞いている『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』とあわせて読むのがオススメ。
「記憶の解凍」プロジェクトというのがあるそうです。モノクロ写真から受ける「凍りついた」印象を、AIを使いカラー化することで変え、遠い日の出来事になりつつある戦争を地続きのものにする。というプロジェクトです。カラー化するにあたっての対話は、様々な人の記憶を呼び起こしています。
風化させてはならない事実が、写真から浮かび上がってきました。今年最も話題となっている戦争関連書です。
内容紹介にこうありました「倫理学は、一般に「善い」とされる価値について、立ち止まり吟味する学問である。」
現代社会は複雑さを増し、一般的な「善悪」の判断が難しい事も増えてきました。特にこのコロナ禍は、人に難題を投げかけています。倫理学の基礎、主要理論から、応用編とも言える現代社会の考察までが1冊に詰まっているので、初心者にもオススメ。
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外出や遠出が難しくなっているなかで、ビジネス書や専門的な本が非常によく売れています。コロナウイルスの蔓延が始まった頃は、パンデミックについて歴史に学ぶといった本がよく動きましたが、今はもう少し人間の内面や心について考えるようなタイトルが動いています。
『思考の整理学』をおさらいし、外山さんのメッセージを噛みしめながら、自分の頭で考えるということをもう一度考えてみてはいかがでしょう。