もしかすると本書は20年代を代表する企業の経営について書かれた初めての本になるかもしれない。まだ7月だが今年のベストビジネス書はこの本で決まり?と言ってもいいくらい素晴らしい本だった。小売業で働く人は必読の1冊である。いまや日本を代表する企業となったユニクロを追い抜くかもしれない企業が現れたのだ。その名はワークマン。作業服専門店で知られるあのワークマンである。そのワークマンの経営について書かれた本が本書である。
今年、創業40周年を迎えるワークマンは快進撃を続けている。国内店舗数はユニクロを抜き869店舗。既存店売上高は20年3月まで17カ月連続で前年比2桁成長を継続し、2018年まで2000円前後で推移していた株価は、右肩上がりで上昇を続け、現在は10000円前後で取引されている。たった3年で株価が5倍に膨れ上がっているのだ。コロナ禍においてアパレル企業が総崩れとなるなか、ワークマンは順調に収益を積み重ねているという。ワークマンに変革を起こしたのは土屋哲夫専務である。この名前は覚えておいて損はない。
正直なところ、私は本書を読むまでワークマンがそこまで業績を伸ばしているとは知らなかった。ワークマンと言えば、吉幾三が作業着を着て「行こうみんなでワークマン」と歌っていたCMを思い浮かべるくらいで、作業服専門店で鳶職の人が着ているニッカポッカや足袋などを売っているお店というイメージしかなかった。
2018年の日経トレンディ「ヒット予測ランキング」の1位にデカトロンとワークマンプラスが並んでいたのは目にしていた。その時にワークマンプラスで上下4900円の防水ウェアがあることを知り、雨具が必須なフジロックに使えるのでは?と思って、実物はどんなものか気になっていたけれど、店舗が近くにないこともあり、結局みることなく、いまだに一度も店に行ったことがない。そんなワークマンがユニクロよりも店舗数が多いということにまず驚いた。
いったいどこに店舗があるのだろう?と思って調べたところ、都心では繁華街には店舗がなく、郊外のロードサイドに多いようだ。ワークマンプラスを出店するときに、銀座や原宿といった場所も検討したようだが、「家賃60%」の場所に出店しても赤字になってしまうのでやめたそうだ。
ワークマンは「家賃3%」を目標としているという。仕入れ品の原価率の目標を65%と設定しており、(原価率が高いほど購入者にとってお得である。アパレルの原価率は3割程度と言われているので、ワークマンの原価率は異常に高い)当時の原価率は63%で、37%が粗利。粗利の40%をフランチャイズ加盟店に分配する仕組みなので、家賃を3%に抑えれば、諸経費を差し引いても10%以上の営業利益を確保できる計算だった。そこで最初にオープンしたのが立川立飛にオープンしたららぽーとの店舗である。この店舗が1年の売上をたった3カ月で達成してしまったというから驚きだ。
立川立飛にオープンしたワークマンプラスに並んでいる商品は、すべて既存のワークマンで扱っているアイテムだという。ワークマンで扱っている1700アイテムから、アウトドアウェアやスポーツウェア、レインスーツなど一般受けするだろうと見た320アイテムを切り出し、マネキンや什器を入れ、照明や内外装、陳列方法を変え、売り方を変えただけで2倍の売上になったというのだ。ワークマンプラスが人気になったことで、既存のワークマンにも新規客が押し寄せたという。同じ商品を扱っているお店なのだから、ワークマンでも同じものが買えると多くの人が気づいたのだろう。
では『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか?』。本書を読んでいくとその答えが見えてくる。まず飽和状態のアパレルにおいて競合不在の「ブルーオーシャン」を発見した点が大きいだろう。
高いか安いかという価格軸に機能性という軸を加えた四象限でライバル候補をポジショニングしたとき、低価格、高機能のという空白の市場があることに気づいたという。ワークマンはそのブルーオーシャンの売上を独占している。この市場にはライバル企業が存在しないのだ。「うちは、とにかく競争したくない会社だから」と土屋氏はいう。「ユニクロアウトドア」や「ユニクロスポーツ」が現れたら、撤退する。とも話していたという。
次にデータ経営の徹底がある。ここに関しての詳細は本書を読んでほしいが、全社員をエクセルの達人にし、半数の店舗に「完全自動発注システム」を入れた。仕入れは小売りの命であり、最も重要な業務であるのは言うまでもない。その仕入れすらも、完全自動化することに成功したというのだから驚きだ。完全自動発注システム導入店の売上は最低でも3%、平均で4~5%、好調な時は5~10%(未導入店よりも)上振れしているそうだ。
大躍進を遂げた最大の理由はPBブランドの充実により、商品力が目覚ましく向上した点にあるだろう。ワークマンは元々既製品を仕入れて売るだけだったのだが、「メーカー品に頼った『しまむら型』から、ユニクロ、ニトリを目指す」と土屋氏が大きく方向転換をしたのだ。商品開発の仕方も独特で、まず先に売価を決め、その値段でどこまで性能を詰め込めるかを考えるという。
商品開発だけでなく、メーカーからの仕入れや、フランチャイズ戦略など、他では考えられない、とてもユニークな取り組みをしている。それらをすべてを紹介すると本書を読む楽しみを奪ってしまうので、今日のところはこのあたりでレビューを締めようと思う。
個人的には本書が今年のNo.1ビジネス書となる予感がしている。小売業で働く人はもちろんのこと、経営に携わる人にはぜひ読んでいただきたい1冊だ。藤田田の『ユダヤの商法』や、柳井正の『一勝九敗』などにも匹敵する時代を超越した新時代の定番書になりえる本である。ワークマンの経営と、ワークマンを成長企業へと変革した土屋哲夫専務という人物には今後も注目していきたい。
小売業で働く人必読の1冊①
小売業で働く人必読の1冊②。レビューはこちら