まもなく梅雨もあけ、夏本番。気温が上がると、食品の足もはやくなります。「あ〜これもうだめだわ」ポイっ。「うーん、これも危ないからやめておこうかな」ポイっ。そうやって食品とサヨナラする機会も増えるかもしれません。
世界では毎年、生産される食料の3分の1にあたる、約13億トンの食料が捨てられていると言います。これは、東京都民1300万人が1年間で食べている量と同等です。
もちろん、そのすべてが、皆さんが家庭でポイっとしている廃棄によるわけではありませんが、日本の食品ロスの46%は、家庭から出ているもの。
今一度、食の「もったいない」に意識を向けるのにお薦めな一冊が、本書『捨てられる食べものたち』。食品ロス専門家の井出留美さんが、46個のポイントを、それぞれ見開き2ページずつで(うち半分〜3分の1を占める解説イラストと共に)分かりやすく教えてくれます。
実は異なる「フードロス」<「食品ロス」
最近は、食品廃棄の問題についてメディアやSNSなどでも見聞きすることが増えているように思いますが、「食品ロス」という言葉だけでなく「フードロス」という言葉もよく見かけます。私もこれまでこの2つの言葉を「日本語と英語の違い」ぐらいにしか思っていなかったのですが、本書によれば実は異なるそう。
英語の「Food Loss(フードロス)」は、「生産・加工・流通で発生した廃棄物」を指している一方で、日本語の「食品ロス」は、より広範囲の「食べられるのに、捨てられる食品全般」を指しているのだと言います。
そうは言っても、たとえば、近年までヨーロッパの多くの国では海藻を食す文化はなかったように、「食べられるもの/食べられないもの」の価値観は文化圏によって異なります。そのため、冒頭で記した「13億トン」という食品ロス量の数値も、もしかしたら、もっと多く見積もれるものかもしれません。
「食」に紐づいた様々な「ロス」
本書では、広義のほうの「食品ロス」に焦点を当てているわけですが、そのなかでは、ちょっと”斜めな視点”からの「ロス」にも言及しています。
たとえば、食品ロス問題でよく取り上げられるファストフード。その定番とも言えるハンバーガーは、1個つくるのに約2400〜3000リットルの水(家庭用お風呂12〜15杯分!)を使っているとされます。これは、特に牛肉を生産するのに大量の水が必要なためです。ハンバーガー1個を捨てるのには、そこまで罪悪感は湧かないかもしれません。でも、お風呂15杯分の水を垂れ流しにしていると考えたら、どうでしょうか…?
あるいは、日本で最も長い歴史をもつりんご園「もりやま園」。社長が調べてみたところ、りんご栽培の作業の75%が、「ひたすら何かを捨てている」時間だったといいます。15%は枝の剪定、30%は摘果作業(不要な実を摘みとる)、30%は葉とり作業(りんごの色づきをよくするため)です。しかし海外では、色づきがまだらなりんごや葉っぱの跡がついているりんごも当たり前で、葉とり作業をしない国もたくさん存在します。もりやま園でも、今は葉とり作業をやめたそうです。
規格外の野菜や果物など、見た目が原因で廃棄される食品のことはよく話題になりますが、見た目へのこだわりが、生産者さんたちの時間や労力の「ロス」も生み出していると言えるかもしれません。
「やればできる」のヒントたち
「問題は分かったけど、何をどこからどう変えたらいいの?」という疑問も湧いてくるでしょう。その対策についても、本書では「成功した具体的な事例」を挙げてくれています。
たとえば、日本の小中学生は、1人あたり年間約7キロ(ごはん約92杯分!)の給食を残しているそうですが、この食べ残し問題をどうにかしようと、東京都足立区は、2007年度から「おいしい給食」という取り組みを開始しました。給食時間をしっかり確保したり、子どもたちに田植え・稲刈り体験をさせたり、栄養バランスや調理法について学ばせたりして、食への興味関心を総合的に高めていきました。その結果、10年間で約7割の食べ残しを減らすことができたと言います。(最近まで足立区に住んでいたので、ちょっと誇らしい気持ちになりました(笑)。)
他にも、容器を改良したことでマヨネーズの賞味期限を2ヶ月伸ばした企業の実例や、食料品店の食品ロスに罰金を課したことで、廃棄予定の食品が寄付に回されるようになった、フランス政府の成果なども紹介されていて、理想や夢物語ではなく、実際に「変えられる」ヒントをたくさん教えてもらえます。
*
本書で紹介されている46のポイント、このすべてが頭に入ったら、食品ロスについて多角的に語れる”プチ専門家”になれるはず。全ページ、漢字にふりがながふられているので、子どもさんでも読めますし、大人でも知らない情報が多いので、親子で学べる一冊にもなるかもしれません。コロナの影響で、家での食事も増えているであろう今、本書を切り口に、食卓の“もったいない”を見つめ直してみませんか?