政府の緊急事態宣言でSTAY HOMEを強いられた日々、楽しみは専ら食事だった。家で晩酌をする機会が多くなると美味しいお酒が欲しくなる。私は日本酒の魅力に嵌った。
著者も日本酒の魅力に取りつかれたひとり。17年前、アルバイト先の居酒屋で飲んだ一口が彼女の人生を一転させた。タイトル通り、いつも日本酒のことばかり、考えるようになってしまったのだ。
病膏肓に入り、唎酒師の資格を取り日本酒教室に通い、蔵元から直接情報を仕入れるようになり、なんとか魅力を世間に伝えたいと日本酒専門ライターとなった。今ではセミナーの講師をするほど、熱い思いがぎゅうぎゅうに詰め込まれた一冊だ。
日本酒の味にもピンからキリまである。だが現在、そのキリの底上げぶりは驚くほどで、はずれの酒はほとんどないと強く語る。基本、自分が飲んで美味しいと思う酒を飲めばいい。
だが酒づくりの工程は繊細だ。
製品の骨格を作る酒米選びから始まり、雑味を取り除き香りを決めるため精米し、米の蒸し具合で麹菌の育ちが決まり酒の味に直結する。本格的な発酵前の酒母づくりで雑菌を殺したのち大きなタンクで本格的な発酵をすすめていく。経験値だけでなく化学反応まで計算しつくす日本酒づくりとは非常にマニアックだと知る。
外国にも紹介され始め、注目されているように思われる日本酒だが、国内の出荷量は実はジリ貧だ。その理由を著者は売り手と飲み手の要求がズレているからだ、と考察している。そのズレがなぜ起こるのか、そこが非常に興味深い。
昭和の高度成長期の宴会では、当たり前に最初から日本酒が用意されていた。だが今後、そんなことは起こらない。美味しい料理と日本酒をひとりか少人数で味わう。新型コロナ禍以降はそれが主流になるだろう。
ともあれ、私は日本酒の旨さに気づいてしまった。日本酒専門酒屋に行き、気になる銘柄についていろいろ教えてもらおうと思っている。
(週刊新潮7月2日号より転載)