挨拶をするときに、必ず自分で詠んだ和歌を1首入れ込む友人がいた。そういえば、必ず和歌が出てくる「いいね!光源氏くん」というドラマもある。本書は、女優、美村里江の第一歌集であるが、普通の歌集と異なるのは、書き下しエッセイ10篇がサンドイッチのように歌と歌との間に挟まれており、とても読みやすい仕掛けがなされていることだ。加えて、視線の休憩所としてのイラストも全て作者の手によるという。そして、このイラストが、また実に素敵なのだ。これでは、もはや読むしかないではないか。
歌集なので、歌をザッピングしてみよう。「するすると逃げさるトカゲ行かないで温い縁石一緒に座ろう」虫と遊ぶのが大好きだった子ども時代を思い出す。何故か僕の記憶の中では、ハンミョウ(ミチシルベ)と素早さや色合いが似ていて、確かに一緒に座れたら楽しいだろうな、と思わせる何かがある。
「ヘッドホン転がり外れ鳴り響くトッカータとフーガ昼下がりのバス」高校の放送部時代、弁当の時間になると、しょっちゅう、トッカータとフーガをかけていて、「またかよ」と友人に笑われたものだった。あのオルガンが「鳴り響く」ところがたまらなかったんだよな。
「すっぴんで休み貪る大の字で貝殻柄の変なズボンで」貝殻柄、どんな色彩だろう?貝殻が、実はとても鮮やかな色をしているのを知っていますか?
「収穫を終えたる土のほこほこと探れば新ジャガ一個、二個三個」Stay home で食事をつくっているが、新ジャガがちょうど店頭に並んでいる。どう料理してもほこほこと美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。くわばらくわばら。
「十年もお世話になったうどん屋の読み方違って星降る頭」あるある!でも、そこでパッと「星降る頭」が出てくるところがヤバい!
「助っ人に入る女生徒頬赤く視線と照れと戦う純真」まるで、映画のワンシーンを観ているようだ。誰に演じて貰ったらいいだろう?やっぱり、ミムラさんかな。
「板チョコと干しイチジクのおやつにて16匹の竜を救って」本書には、作歌を助けた書籍五二冊も収録されている。もちろん、エルマーです。因みに、拙著も一冊入れていただいている。
「今日A子明日はB美で次はCみな自分だが浮気のようだ」でも、それが役者冥利につきるというものではないか。学芸会しか体験がないので何とも言えないが。この世は舞台、人はみな役者だ。
「この映画面白かったぁ観て正解あとは私が出てたら満点」オビに「好きなもの呪文のように書き続け私にだけ効くマントラとする」という一首が載っているが、確かに効きそうだ。シンクロしている。
「どれほどの丸い言葉に溢れても裏返っては戻せないもの」古代のギリシャでは、全能のゼウスですら一度発した言葉は取り消すことができなかった。ここからギリシャ悲劇が始まるのだが、言葉は本当に重いもの。
一読して心に引っ掛かった歌をあげていくときりがないので、このあたりで止めておくが、エッセイがまた勝るとも劣らない。それは、皆さん自身の目で確かめてください。