本書にも書かれているように、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、これからの時代は「何をやっているかわからない人が強い」と言っている。
京都大学、東京大学修士、三菱UFJニューヨーク、米ハーバード大学理学修士、グーグルを経て、現在は日米にまたがるベンチャー投資のかたわら、ハーバード大学客員研究員やテレビコメンテーターなどを務める38歳。この世界では超有名人の山本康正について、一体何の人なのかわからないと思っている人も多いだろうが、本書を読むと、彼のやろうとしていることがきちんと理解できる。
本書で著者は、自分の立ち位置について、本来はキリスト教の伝道師を意味する「エバンジェリスト」だと言う。AI(人工知能)やブロックチェーンなど、最先端のテクノロジーは、その中身を十分に理解した者がビジネスの世界につなげる必要があるが、現実にはその両方に精通している人材はほとんどいない。
まして、著者のように、金融機関からIT企業を経て投資家になったような人は、数えるほどしかいない貴重な存在なのである。
そうしたエバンジェリストを自任する著者が、最先端のテクノロジーがこれから社会をどう変えていくのかについて、文系の経営者や一般の人々にもわかりやすく解説したのが本書である。
著者によれば、2020年代のテクノロジーの世界は、AI(データを使った判断)+5G(5th Generation データの高速処理)+クラウド・ビッグデータ(データの保存処理)の3つのメガテクノロジー(トライアングル)で激変する。
この点に早くから気づき、3つのメガテクノロジーを開発し続けてきたのが、GAFAに2社を加えた米国企業群FAANG+M(フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル、マイクロソフト)であり、それを猛追しているのが、中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)なのである。
そして、こうしたメガテクノロジーがもたらすメガトレンドが、以下の7つである。
①データがすべての価値の源泉となる
②あらゆる企業がサービス業になる
③すべてのデバイスが「箱」になる
④大企業の優位性が失われる
⑤収益はどこから得てもOKで、業界の壁が消える
⑥職種という概念がなくなる
⑦従来の経済理論が進化した新理論が誕生する
著者は、3つのメガテクノロジーと、4つ目となりうるポテンシャルを持ったブロックチェーンによって、今後、企業や世界はこのように変化していくと予想している。
「自動運転」「スマートホーム」「ドローン・ロボティクス」といった、次代の主力となる業界・企業群なども、ほぼすべてがこのトライアングルによって生まれてくるのである。
本書は、誰もが断片的には理解しているが、その全貌を理解できていないさまざまなトピックが有機的に解説されており、今の時代を生きるビジネスパーソンが理解しておくべきテクノロジーとその意味が概観できる良書である。
※週刊東洋経済 2020年3月21日号