テレビで取り上げられたものの売れ方というのは出版業界に限らない、大事なポイントでしょう。本についても「この人がテレビで薦めたら売れる」という方が何人かいます。ノンフィクション業界でのその筆頭格となっているのがカズレーザーさん。昨年9月に薦めた『ケーキの切れない非行少年たち』はこのオススメによって大ブレイクし、今に至っても高い売行きを見せています。
*グラフは『ケーキの切れない非行少年たち』の週次の売上グラフ(日販調べ)。赤の部分が「シューイチ」での取り上げのタイミング
この本に続き、カズレーザーさんが推薦したことでブレイクの兆しを見せている本があります。それが『生き物の死にざま』です。今回はこの本に注目してみたいと思います。まずは読者層です。
最近の生き物ブームから想像するともう少し若い層にも読まれているのではないかと考えていましたが、年齢層は高め。60代をピークに広がっています。生き物がどんな死を迎えているのか、まさに生き物の死への向かい合い方を描いたものということで、自分の生き様や死に様をあわせて考えている方もいらっしゃるのかもしれません。子ども向けの「ちょっと自虐的な」生物本とは一線を画す読まれ方をしているようです。
併読本ベスト10を見てみます。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『ケーキの切れない非行少年たち』 | 宮口 幸治 | 新潮社 |
2 | 『こども六法』 | 山崎 聡一郎 | 弘文堂 |
3 | 『反日種族主義』 | 李 栄薫 | 文藝春秋 |
4 | 『独ソ戦』 | 大木 毅 | 岩波書店 |
5 | 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 | ブレイディみかこ | 新潮社 |
6 | 『若い読者に贈る美しい生物学講義』 | 更科 功 | ダイヤモンド社 |
7 | 『上級国民/下級国民』 | 橘 玲 | 小学館 |
7 | 『残酷な進化論』 | 更科 功 | NHK出版 |
7 | 『もっとざんねんないきもの事典』 | 今泉 忠明 | 高橋書店 |
10 | 『未来の地図帳』 | 河合 雅司 | 講談社 |
さすが!と思わず唸ってしまいました。1位には『ケーキの切れない非行少年たち』が入っています。生物関係ということでは『若い読者におくる美しい生物学講義』などが入って来ました。
それではこの併読本の中から注目の数点を紹介します。
住みたい町などの満足度調査は、よく見てみるとデベロッパーが調査したものだったりします。そして大規模マンションが計画されている、なんてことも…そんな住みやすさランキングではなく、首都圏在住者への調査とフィールドワークから徹底予測したというのがこの本だそう。序章が「埼玉と「東京北側」の逆襲」から始まっていますので、『翔んで埼玉』を観て悔しい思いをした方にはぜひ手にとっていただきたい1冊です。あなたの住んでいる街はどういう街ですか?
著者はジャック・アタリ。『新世界秩序』などが有名ですが、政治から経済まで広くに精通し、今世界に起こっている事を的中させてきた知性の一人。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、食料についての不安や関心が高くなっています。生命を維持するだけにとどまらない「食」というものに目を向け、今後人類は何を食べて行くのかを予言していきます。今話題になっている昆虫食についての記述も。
発売すると同時にベストセラーとなった中野信子の最新刊。実は、3月~5月というのは新生活を始めたり、昇進して仕事の内容がかわったり…と対人関係の本が最も売れる時期なのです。人気著者&人気テーマの組み合わせでベストセラー街道ばく進中。
気持ちを察する事でもある「空気を読む」事は、時にして生きづらさに繋がるようなネガティブな気持ちも引き起します。そういう脳とどう付き合っていったらよいのでしょう。
一瞬、福岡伸一さんの最後の講義を本にしたものかと早とちりしましたが、こちらはNHK BSで放送された『最後の講義』に未放送分を加えて完全版とした書籍です。知の最前線に立つ人たちは「最後の講義」で何を語るのか、人生最後の覚悟だからこそ出来る講義の熱いメッセージから目が離せません。
今年は卒業式が執り行えなかった学校もあるでしょう。最終講義が受けられなかった学生もいるでしょう。そんな方にもオススメしたい1冊。
重苦しい毎日が続きますが、そろそろ春が到来します。見上げれば花のつぼみも随分大きくなっているようです。植物の名前だけに限定してその語源や漢字の成り立ちを解説した本がこちら。
人混みから抜け出て春の野山を散歩するには絶好の相棒になってくれるかもしれません。
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出歩く機会が減るときこそ読書のチャンス。いつもは落ち着いて手に取りづらい重厚な本にもチャレンジしてみたいところです。ゆっくり読書をお楽しみください。