第162回の直木賞を受賞した『熱源』。もちろん小説ですが、実在する人物を主人公に据えたことでノンフィクション読者にも興味を持たれているようです。特に北海道での人気はすさまじく、都道府県別の売上シェアは14%に上り東京に次ぎ第2位に。(今、もっとも売れている『鬼滅の刃』の北海道の売上シェアは4%程度ですのでこの特異性は明らかです)
実在する人物をとりあげた小説がどんな方に読まれているのか。今回はこれを取り上げます。
まずは読者層をみてみましょう。
歴史的な出来事を取り上げていることもあり、もともと60代以上の読者が多かったのですが、直木賞受賞によって年配層の読者が大きく拡大しました。受賞前の男女比は8:2くらい。その後女性読者が増え、現在は5:3くらいまでになっています。
続いて、この読者が過去2年以内に購入したものランキングです。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
---|---|---|---|
1 | 『宝島』 | 真藤順丈 | 講談社 |
2 | 『そして、バトンは渡された』 | 瀬尾まいこ | 文藝春秋 |
3 | 『渦』 | 大島真寿美 | 文藝春秋 |
4 | 『背高泡立草』 | 古川真人 | 集英社 |
5 | 『むらさきのスカートの女』 | 今村夏子 | 朝日新聞出版 |
6 | 『ノースライト』 | 横山秀夫 | 新潮社 |
7 | 『ファーストラヴ』 | 島本理生 | 文藝春秋 |
8 | 『ノーサイド・ゲーム』 | 池井戸潤 | ダイヤモンド社 |
9 | 『一切なりゆき』 | 樹木希林 | 文藝春秋 |
10 | 『かがみの孤城』 | 辻村深月 | ポプラ社 |
1位から5位までは直木賞、芥川賞、本屋大賞といったタイトルが独占。いかに「賞を受賞する」ということが需要喚起しているかがよくわかる表になりました。
1位となった『宝島』は日本列島の反対側、沖縄を舞台とした作品。第二次世界大戦後の沖縄という時代背景もあり同じく男性読者に大きく支持された一冊でした。
アフガニスタンで銃撃を受け死亡した中村哲医師の本が続々重版されています。こちらは著者初の自伝。1600本もの井戸を掘り、25.5キロにもおよぶ用水路を築くにいたった理由はなんだったのか、何を考えていたのか。もはや本人の声を聞くことが出来なくなった今だからこそ、未来永劫語り継ぎ読み続けたい1冊となりました。
「週刊現代」連載時より話題になっていた連載の単行本化。大きな決断をし、裁くという想像出来ないほどの重責を担っている裁判官はどんな事を考えているのか。100人を超える裁判官の取材から明らかになったその姿とは。12月には『裁判官失格』という新書も発売されており、裁判官の実態には注目が集まりつつあります。
小説という体をとっていますが、実際にはノンフィクションとして読める部分もある…と話題になったトヨトミシリーズ第2弾。この本は愛知県の売上が突出しています。なんと、そのシェアは『熱源』もビックリの50%超え!
何が書かれているのか、どこまでがフィクションなのか、そして誰が書いたのか。議論真っただなかの作品です。
昨今の麻薬が関わる犯罪のなかでたびたび話題になる「マトリ」。名前は聞いたことがあるものの、その実態は謎に満ちたものでした。著者は元麻薬取締部部長。プロ中のプロが麻薬犯罪の実態と、捜査専門機関の実態を解説した貴重な1冊。麻薬犯罪は増える一方で、気づけば私たちの生活の身近なところにまで迫ってきています。撲滅のためにも私たちは実態を知らないとなりません。オビ写真もインパクトがある!と話題です。
『熱源』とあわせて読むには最適なテーマではないでしょうか。2014年にNHKのドキュメンタリー番組として制作された「女たちのシベリア抑留」を担当したディレクターが綴ったノンフィクション。シベリア抑留の中でも長らく表に出てくることがなかった女性捕虜たちのインタビュー。70年という時を経て明らかになった歴史とはどういうものだったのでしょうか。
*
『熱源』の読者が読むノンフィクションや小説には「何か一つのことを頑張り死に物狂いでやりきった」という人を扱ったものが多かった印象があります。こういった本を通じ、若い層が過去を学び、自分の生き方を見直したり考えたりするきっかけになるといいなと思うのです。
アイヌ文化や過去の歴史についてはまだまだ理解度は少ないままです。読書を通じて一度じっくり考えてみませんか?