日本の伝統芸能である歌舞伎、文楽、能・狂言、演芸、それぞれから3人ずつ、計12人の「若手」が語り尽くしたインタビュー集である。
若手といっても年齢はかなりばらついている。平均年齢は38歳だが、歌舞伎の八代目市川染五郎の14歳から、文楽人形遣いの吉田玉助の53歳まで。
歌舞伎界からは染五郎と共に、尾上松也、中村壱太郎で、それぞれ34歳と29歳である。他に比べて年齢が低いのは、歌舞伎が家柄や血筋を重んじるので、若い頃から注目されやすいためか。
この3人に共通しているのは、歌舞伎に軸足を置きながら、他の新しい方向性も目指していることだ。歌舞伎はそのようにして時代を取り込んできた。
歌舞伎と同根の文楽だが、対照的に世襲制ではない。そのためもあるのだろう、三芸とも師弟の関係が非常に厳格であるという印象をうけた。玉助は人形遣いの家だが、義太夫語りの竹本織太夫は三味線弾きの家系、そして、三味線の鶴澤清志郎は全く関係がない家庭からの入門とさまざまである。
能・狂言も家系を重視する伝統芸能だ。ひとくくりにされることもあるが、両者のスタイルはかなり違っている。能は古典を守っていくが、狂言の茂山逸平によると、茂山家では台本を大幅に書き換えてきたというから驚きだ。
伝統芸能賞を難易度順にすると、
能>>狂言≒歌舞伎≧文楽>演芸
といったところだろう。何しろ能は難解で、自慢じゃないが何度見てもよくわからない。
能シテ方の宝生和英と囃子大鼓方の亀井広忠はそろって、能は理解する必要はなく、美術館の絵画のように鑑賞すればいいと言う。なるほど、ストーリーはあまり気にせず、自分なりに感じ取ることができればいいということか。次回はぜひそうしてることにしよう。
演芸からは落語の春風亭一之輔と2月に伯山を襲名する講談界の救世主・神田松之丞。もう一人はかつて「進ぬ!電波少年」のケイコ先生だった浪曲の春野恵子である。それぞれの芸道で将来を託される人気者だけあって、三人三様にとてもユニークだ。
こういった若手たちがいる限り伝統芸能は不滅だという気がするが、皆が見に行かなければお話にならない。不案内な人であっても、この本を読めばきっと行きたくなってくるはずだ。
かゆいところに手が届く中井美穂のインタビューもまるで芸のようだ。それぞれの伝統芸能のことがよくわかる。違っているところもあるが、むしろ類似点の多のがおもしろい。
あとの二冊は登場した若手の本から。まずは松之丞の『絶滅危惧職、講談師を生きる』。なぜ講談師を選んだのか、なるほどこの人は違うとうならされた。もう一冊は織太夫の『ビニネスパーソンのための文楽のす々め』を。300年の歴史はダテじゃない。文楽は今を生きる人たちにも十分に役立つのである。
日経ビジネス1月27日号から転載
講談、松之丞さんのおかげで大人気の時代がくるかも。
違う視点から文楽を眺めてみるのも面白い。