今日1月4日は新日本プロレスにとってお祭りの日だ。毎年イッテンヨンと銘打って東京ドームで試合が行われている。今年はイッテンヨン、イッテンゴと2日連続で東京ドーム興行が行われる。普段であればメインイベントになるベルトをかけた戦いが、いくつもの試合であるという1年で1度のお祭りだ。そんな日にレビューするのは新日本プロレス(以下「新日」)の社長が書いた『百戦錬磨』だ。
私は一昨年から新日にはまっている。きっかけが何だったかは思い出せないが、新日本プロレスワールドという動画配信サービスに加入してからは、応援しているレスラーの試合とバックステージコメントは欠かさずみるようになった。昨年は初めて会場にも足を運び、プロレスを初めて生で観戦した。自分のような新規の新日ファンが最近は増えているそうだ。
2000年代初頭はK-1やPRIDEといった総合格闘技に押され、人気は低迷、選手の大量離脱なども影響し、新日は暗黒期を迎えていた。2012年にブシロードが新日を買収してから、CMやプロモーション活動に予算を投じ、マーケティングを強化したことでV字回復を遂げている。近頃はプ女子などと呼ばれる女性客も増え、プロレス人気が再燃している。売上高は2012年の5倍にも膨れ上がっているというから驚きだ。
昨年はアメリカのマディソンスクエアガーデンでの興行を成功させるなど、海外での新日人気も高まっている。そして今日、明日には東京ドームで2日連続で興行が行われる。そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの新日の社長兼CEOを2018年6月から務めているのがハロルド・ジョージ・メイ氏だ。帯にもでかでかと新日のロゴが配されていたので、新日のV字回復の秘訣などがたくさん書かれているのだろうと思って購入したところ、いい意味で期待を裏切られた。
新日については30ページほどしか書かれていなかったのだが、ビジネス書として、ものすごくまっとうな本であったのだ。彼がキャリアで培ってきたビジネス、経営、商品開発、マーケティングのことをまとめた1冊となっており、現在、どういうスタンスでプロ経営者を務めているのか、また経営者はどうあるべきか。ということがとてもわかりやすく書かれていた。
ハロルド・ジョージ・メイ氏はオランダで生まれ、8歳のころに親の仕事の関係で来日した。13歳で日本を離れたあとは、インドネシアで学生時代を過ごし、大学進学のためアメリカへと渡る。社会人になってからは日本で働き、マーケティング畑を歩み、ハイネケン、日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ副社長、タカラトミー社長を経て、現在は新日本プロレスの代表取締役社長兼CEOを務めている人物だ。
1/3はオランダ人、1/3は日本人、1/3はアメリカ人のような気持ちでいるという彼は、母国語も英語と日本語とオランダ語の3か国語で、それぞれの言葉を使うときは性格や態度までが変わるそうだ。日本語を話すときは調和を考えて婉曲な表現を用い、謙虚さも持ち合わせているそうだが、英語を話すときはもう少し押しが強く自信家でダイレクトでドライだとか。オランダ語はその中間だという。
ビジネスでは謙遜はせずに、自分には自信があると堂々と商品の良さを伝え、売り込むことがとても大切で、どんな時もへこたれずに攻める姿勢が大きな結果につながるという。そういう面では複数の言語を操り、複数の人格を持っている彼のような人は強いのかもしれない。2019年1月に人気選手数人が離脱して、大丈夫なのか?という空気が流れたとき、彼はコラムで「もっと大変なことをいくつもくぐり抜けて業績を上げてきました。大丈夫。自分で言うのもなんですが百戦錬磨です。」というメッセージをのせた。実際に2019年も新日の快進撃は続いている。
マーケティングが天職だという彼はタカラトミー時代には空港の搭乗ゲートの空いているスペースにカプセルトイの自販機を設置したり、日本コカ・コーラ時代には常温のお水やお茶をコンビニに展開したりと、様々なアイデアで新たな市場をつくりだしてきた。成熟した市場で、それ以上は成長の見込みがないように見える商品でも、新たな売り場の開拓や潜在的な仕様ニーズを掘り起こすことで、市場が1.5倍や2倍になることがあるそうだ。マーケティングに関わる人は売り場を観察することと業界の常識に縛られないこと、そして自分のアイデアが不発に終わってもチャレンジし続ける強いハートが必要だという。
彼はキャリアの残りの時間すべてを新日本プロレスに捧げたいと思っているそうだ。今まで培ってきたすべての力を注いで、新日本プロレスを向上させることが彼の夢だという。彼がこれから新日本プロレスをどこに連れていってくれるのか。この本を読むことでより楽しみになってきた。
私の応援している内藤哲也選手の人気連載をまとめた本。逆転の内藤哲也を楽しみにしています。トランキーロ、あっせんなよ!
新日の暗黒期を乗り越え、今の新日本プロレスの人気を支え続けている棚橋弘至選手の書いたビジネス書(?)この本もいい本です。