車を運転する人なら誰でも、行く先に赤い光が見えると工事を覚悟して「あまり待たないといいな」と思うだろう。でもその誘導灯を持つ誘導員に注意を払うことはなく、ほとんど風景のようになっている。
しかし本書を読んで「交通誘導員」を気にするようになると、確かに男女問わず老人と言ってもいい人が、夏の真っ盛り、炎天下のアスファルトの上で真っ黒に日焼けして働いている姿がよく目に留まる。
道路に面している工事現場には、車両の通行や住民の往来などに迷惑をかけないよう、そして工事に支障が出ないように研修を受けた道路交通誘導員が必要である。全国におよそ55万人(2017年末)いる警備員の約4割がこの交通誘導警備員だ。
著者の柏耕一は73歳。出版社勤務のあと編集プロダクションを興し、40年ほど編集やライター業に従事。ベストセラーも出したことがあるようだが、あることで身を持ち崩して会社を清算し、この交通誘導警備員となった。約2年の経験を経て、この仕事の詳細を書き著してみようと思ったのだ。
実はこの交通誘導員、驚くほど繊細なコミュニケーション能力が必要だ。通行止めの場合、迂回路や現場近くの住人への対応や誘導、無理に通ろうとする人への説得など、罵倒されようが懇願されようが、頭を下げてお願いするしかない。
複雑な交差点での交通整理ともなれば、渋滞にならないよう複数の誘導員が連携して速やかに指示をださなくてはいけないのだ。
警備会社に所属し派遣されている以上、現場監督や作業員との関係にも気を使う。帯に書かれた「誰でもなれる」「最底辺の職業」とはとても言えないと、ひたすら感心した。
いろいろな現場のエピソードは笑いあり涙あり、そして多くの怒りあり。人生の縮図そのものだ。柏さんは今日も道路に立っているのだろうか。(週刊新潮9月19日号)
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老いらくの恋ここに極まれり。何十歳もの年の差を越えてフィリピンで結婚生活を営む男たちは、例え金目当てだろうと自分と子供を大切にしてくれる妻に満足している。東北の寒さから逃れてきた夫婦、子供に厄介払いされた老女、孤独死した元女教師でさえ幸せそうに暮らしていた。自由な老人たちが眩しい。