『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる
ものすごい本だ。まずはページ数。索引と原注だけで141ページ。本文582ページ。重い。
次は帯。「核戦争なき平等化はありえるか?」という文章が美しい縦書きで書かれている。不意をつかれてギョッとする。横書きには第二次世界大戦、毛沢東の「大躍進」、欧州のペストという千万人単位が死亡した事件の結果として起こった平等化、生活向上、賃金上昇などの例を上げている。さらにギョッとする。
あまりに分厚いので、とりあえず序章と第4章「国家総力戦」を試し読みしてみた。第4章は明治維新以来の日本の不平等の激化と戦争による解消だ。浅学な評者としては概ね正確だとしか評価することはできないが、これだけでヘタな新書一冊分の情報量がある。
もちろんトマ・ピケティの総括にも触れており、その検証も行っている。トマ・ピケティの総括とはすなわち
「かなりの部分まで、20世紀の不平等を緩和したのは、経済的、政治的な衝撃を伴う戦争という大混乱だった。漸進的で、合意にもとづく、争いのない変化を通じて、平等の拡大へと至った例はひとつもなかった。20世紀において、過去を消し去り、社会がまっさらな状態で新たに始動できるようにしたものは、調和のとれた民主的合理性や経済合理性ではなく、戦争だったのである」
この本をどう読むかで読者の思想や見識が試されるであろう。著者のウォルター。シャイデルは53歳。古代の社会および経済史、前近代の歴史人口統計学、世界史に対する比較的および学際的アプローチを専門としている。
本書は6月に発行されたが9月に第2版。さもありなん。日本にはちゃんと知識階層は存在しているのだ。素晴らしい本だ。
ちなみに今月はエマニュエル・ラデュリの『気候と人間の歴史 第1巻』が発売された。734ページ。ラデュリは今年90歳になる第3世代アナール派の重鎮だ。8800円。あと2巻でてくる。死ぬ前に読み終わりたいものだ。あと40年!命は大丈夫かもしれないが、問題は本の重さだ。老後に備えて肘を鍛えておく必要がある!