まずは質問に答えてほしい。年齢や経歴によって答えられないものもあるかもしれない。それでも、ざっと眺めてほしい。
・子どものころの夢は?
・駆け出しのころ役だった(または無視して正解だった)
アドバイスは?
・仕事場のお気に入りポイントは?
・キャリアや仕事のために払った最大の犠牲は?
・あなたにとって成功とは?
・夜眠れなくなるような不安や悩みはある?
・1億ドルもらったら、ビジネスのやり方を変える?
変えるとしたらどんなふうに?
・自分でビジネスを始めて得た最大の教訓は?
・ミスから学んで成功につながったことはある?
・仕事で経験した最大の成功や誇りは?
・あなたのモットーは?
・自信をなくしたり逆境に陥ったときの立ち直り法は?
・自分らしく好きなことをしようと奮い立たせてくれる
座右の銘は?・今の仕事を知ったのはいつ?なぜ惹かれた?
・世の中にもっとあってほしいものは?
減ってほしいものは?
・自分の性格でいちばん自慢できるところは?
・ビジネスを始める前に考えておくことトップ3は?
・ビジネスのアイデアや自分がやりたいことに
気づいたのはいつ?
・クリエイティブ系のビジネスを始める人に勧めたい
備えは?
・インスピレーションが必要なときや、
スランプから脱出したいときの特効薬は?
・10~20年前の自分に教えてあげたいことは?
・世の中にもっとあってほしいものは?
・これがなくてはやっていけない道具やモノや
儀式はある?
・1日のよいスタートを切るために、
朝いちばんにすることは?
・長い1日の仕事を終え、
家に帰ってから楽しみにしていることは?
・1日があと3時間増えたら何をする?
・今の自分から見て、
駆け出しのときこうすればよかったと思うことは?
・憧れの、あるいは尊敬する女性は誰?
どうだろう。自分と対話しながらこういったことを考えるのは、なかなか楽しくはないだろうか。なによりも、自分を見つめなおすいいきっかけになる。これらの質問が、112人の女性-性転換した女性もいる-に投げかけられる。その年齢は19歳から94歳と幅広い。
インテリアデザイナー、家具職人、ライター、陶芸家、シェフ、美容家、美術館館長、ランジェリーデザイナー、パン職人、作家、アーティスト、ミュージシャン、建築家、俳優、ホテル経営者、ジュエリーデザイナー、陶芸家、テレビ番組司会者、テキスタイルデザイナー、ラジオ司会者、イラストレーター、グラフィックデザイナー、コメディアン、編集者、活動家、実業家、ダンサー、空間コーディネーター、ブロガー、ファッションデザイナー、フォトグラファー、ジャーナリスト、フードスタイリスト、造本家、テレビ司会者、木工作家。
ざっとあげただけで、これだけの職業の女性たち。クリエイティブ系とフリーランスが多いけれど、これも年齢同様じつにさまざまである。
編者のグレース・ポニーは、「アメリカでは、女性経営者がまだ4割にも満たないことを知って『なんとか変化をおこしたい』」と活動を開始した。日本人としては、「まだ4割にも満たない」というところに感動を禁じ得ないが、それはさておく。そして、その活動から、「多くの女性たちには、自分で会社を始めたいという意欲がある」そして「まわりのサポートさえあれば、それが実現する可能性は大きく高まる」ということを痛感する。その経験から作ったのがこの本だ。
米国において女性起業家が紹介されるとき、ほとんどが若い白人女性である。そのことに違和感をいだき、有色人種やLGBT、さらには心身に障がいのある女性たちを多くとりあげている。世界のあり方を指し示すかのようだ。
登場する人たちがバラバラなのと同じように、それぞれの質問に対する答えもバラバラだ。たとえば、最初の「子どものころの夢は?」という質問。初志貫徹の人は決して多くない。これは、きわめて健全なことだ。「あなたにとっての成功とは?」にも、いろいろな回答がある。しかし、金銭や地位、名誉なんかをあげる人などいない。多くの人が、自分らしさく生きられるようになった、とか、好きなことをできるようになった、といった意味のことをあげている。
これまでに名前を聞いたことのある人は誰ひとりいないし、この人たちがどのようにして集められたのかはわからない。しかし、満ち足りた素敵な表情から、それぞれの道でなにがしかの成功をおさめた人たちなであることがわかる。想像するに、大成功-定義は難しいけれど-とまではいかないのではないかと思うが、それぞれが成功した人たちなのだ。
伝記を読むのがやたらと好きなのだが、伝記になるような偉人となると、誰もが認める大業績をあげた人たちだ。そういった人たちの人生から、いろいろなことを学び取ることができるのも伝記読みの面白いところである。しかし、偉すぎて、いまひとつリアリティーが感じられないことがよくある。こんな努力は絶対に無理、こんな才能ないし、とか、こんな幸運が舞い込んでくることなんか信じられない、とか。
しかし、この本に出てくる女性たちは、かなり身近だ。メキシコ五輪のマラソンで銀メダルに輝いた君原健二は、実践目標を小刻みにたてることの重要性を語っている。それと同じで、あまりに遠くの人を目標にするよりは、親近感のわく人たちを目指した方が賢明だ。
ただ、多くの人がいくつもの質問に対して答えていて、内容が豊富すぎる。なので、通しで読むにはあまり適しているとはいえない。それよりも、ちょっとした時、疲れた時や行き詰まった時、にパラパラっとめくってみるのがいい。人生について、何らかのヒントが必ずそこにある。生きるヒントがこれだけ散りばめられた本、これまでにあっただろうか。
「女の話か、興味ないな」、と思う男たちがいるかもしれない。そういった考えは根本的に間違えているし、そんな小さな考えでこの本を遠ざけるのはもったいなさすぎる。ジェンダーなど関係ない。人間としてどう生きていくべきか、この本はそのことについて多くのことを教えてくれるのだから。
なにかを「始めた」女たち、科学者編。以前、HONZでレビューを書きました。
なにかを「始めた」女たち、アスリート編。
キリンの解剖を始めた女子東大生、郡司芽久さんの物語。HONZでのレビューはこちらです。夢と行動、です。