キャスリーン・フリンさん、日本へようこそ!著者のキャスリーン・フリンさんは、前作『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』で日本で熱烈な支持を受け、テレビ番組『世界一受けたい授業』にも出演している。本書は、邦訳された2冊目の本であり、期待を裏切らず、彼女ならではの感性をキュートな言葉にのせ、読者を楽しませてくれる。
前作の原題は、『The Kitchen Counter Cooking School: How a Few Simple Lessons Transformed Nine Culinary Novices into Fearless Home Cooks』翻訳者は、『ダメ女たちの人生を変えた〜』と訳している。本書によると、タイトルの「ダメ女」とは、”苦手なことがあるせいで自分のことをダメだと思い込んでいる女性”を意味しているらしい。翻訳者の村井さんは、キャスリーンに次のようなメールを送っている。
キャスリーン、わたしたちの文化では、女性はなにごとにも優秀であることを求められがちです。(中略)すべてにおいて完璧でありながら、料理だって完璧でなくちゃいけないんです。料理ができない女性は「ダメ」という烙印を押されてしまいがち。わたしたちはそんな風潮に反論したいのです。
キャスリーンさんの前著が日本の読者の心を捉えたのは、彼女のシンプルな「暮らしを支えるための料理」という考え方だ。技術はもちろんのこと、食材を廃棄することの問題点や、肉はかつて生き物だったという事実なども教えてくれた。”必要なのは、元気に暮らそう、おいしい食べ物で大切な誰かを喜ばせてあげよう、まっすぐな気持ち”だと、彼女は繰り返し伝える。そして、本書『サカナ・レッスン』も同じで、彼女はいつも料理を怖いと思いがちの女性の目線に立っている。
今回、キャスリーンさんは、日本で東京すしアカデミーの生徒となり、魚の捌き方を学ぶ。それまでの彼女の寿司の経験は、フロリダのショッピングセンターで食した寿司であった。旦那のマイクさんは、その時に寿司は好きになれないかもしれないと感じ、今回日本を訪れる前には、不安を隠せないでいる。果たして、2人は、日本の魚文化に何を発見し、何を感じるのだろう。
本書ではキャスリーンさんは、東京すしアカデミーで何十匹もの魚のさばき、だしの基本、魚を新鮮に保つための〆かたなど、様々な魚料理を学んだ。それぞれ「サカナ・レッスン」という4つのコラムにまとめられているが、キャスリーンさんならではの外からの目線が新しく、とても参考になる。たとえば、”塩の振り方に名前を付けさせたら、日本人の右に出るものはいない。”など、気付きが楽しいのだ。
さらに、移転直前の築地市場ではマグロの競りを見学する。築地のようすは、「第三幕 築地市場ザ・ファイナル」にまるまる一章割いているが、この記録が外国人による最後の築地市場の記録かもしれない。競りに使う道具の詳細から、マグロ空輸の歴史、そして築地で生きた人々の人生について。彼女は、移転後の豊洲も訪れているが、彼女の感性は何を捉えたのだろうか。彼女は、パリのレ・アール市場と比較して、日本の今後を憂う。
ここまで書いてきた通り、本書は秀逸な取材と体験により、たくさんの情報や知識が詰まっているのだが、なぜだかすーっと読めてしまう。それは、キャスリーンさんのまるでコーヒーを飲みながら友達の話を聞くように楽しく、親近感あふれる文章のおかげである。日本文化というと、作法や礼儀など、背筋がピンと伸びるような緊張感を感じてしまうが、彼女の文章を読むと、距離が縮まる感覚があり、魚調理への一歩を歩みだしたくなる。
外の目を通して日本の魚文化を体験するという貴重な体験をありがとう、キャスリーンさん!
また是非日本にお越しください。
東えりかによるレビューはこちら。