ここ数年、IT(情報技術)とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の急速な発展により、人々があらゆる境界を越えてつながり、世界は激変したと実感している人は多いだろう。
ツイッターを活用して膨大な支持者層を手に入れたトランプ米大統領の誕生は、その象徴的なできごとである。
フェイスブックのような巨大IT企業が誕生し、社会の基盤となる一方で、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を共有する「ミートゥー運動」のような、これまでは力を持たなかった大勢の個人が団結した、大規模なムーブメントが、世界各地で起きている。
そうした世界的なパワーシフトを理解するために筆者が提示する考え方が「ニューパワー」と「オールドパワー」である。
オールドパワーは「貨幣」に似ている。少数の人間がパワーを掌握し、守り抜こうとする。権力者は強大なパワーを溜め込み、行使する。閉鎖的で近寄りがたく、リーダー主導型である。
他方、ニューパワーは多数の人間によって生み出され、「潮流」のように広まる。オープンで参加型であり、対等な仲間によって運営される。その目的は、溜め込むことでなく提供することである。
20世紀は、大手企業や政府などが権力を持つオールドパワーの時代だったが、21世紀は、個人でも際限なく大きな影響力を持てるニューパワーの時代だ。
個人が社会に参加したり大勢の人を動かしたりする方法は、つい最近まではかなり限定されていたが、現在では、どこでも誰とでもつながれ、地理的な境界線を飛び越えて、かつてない速さとスケールで組織化できるようになった。
このニューパワーを取り入れた、世界中のあらゆる分野における実例が紹介されている。
例えば、エアビーアンドビー、ウーバー、フェイスブックといった巨大企業から、ブラック・ライブズ・マターのような政治運動、ギットハブのようなソフトウェア開発プラットフォームだけでなく、NASA(米航空宇宙局)やローマ教皇庁のような伝統的な組織、更にはIS(「イスラム国」)のようなテロ組織まで、紹介事例は極めて多岐にわたっている。
更に、もうひとつ注目すべきなのは、ニューパワーとオールドパワーの対比に、「ビジネスモデル」と「価値観」を組み合わせ、組織を4象限にマッピングしている点だ。
例えば、時価総額世界トップクラスのアップルは、ビジネスモデルも価値観もオールドパワーの企業である。
フェイスブックは、ビジネスモデルはニューパワーでも、価値観はオールドパワーそのものだ。20億人のユーザーは、そこから生み出される巨額の利益の恩恵を受けることはなく、そのアルゴリズムも分からなければ、運営方法にも口を出せない。
ニューパワーは、良い意味でも悪い意味でも、人類の未来に大きな変化をもたらす「諸刃の剣」といえる。
そうした中で、時代の大きな変化と付き合う方法を示してくれる本書は、現代の情報社会を生きるすべての人にとって、心強い道しるべとなるだろう。
※週刊東洋経済 2019年2/2号より