今年、Yahoo!ニュース/本屋大賞ノンフィクション本大賞という新たなノンフィクションの賞が創設されました。相次ぐノンフィクション掲載誌の休刊なども重なりノンフィクションの危機が叫ばれている中、ネットメディアが創設したこの賞は大きな意味を持つものになるでしょう。
この賞の第1回の受賞作『極夜行』は、受賞をきっかけとして大きく部数を伸ばし世の中に広がりました。さらに、年末に発表された第45回大佛次郎賞も受賞。まさに今年を代表するノンフィクションとなりました。今回はこの『極夜行』について見ていきたいと思います。
まずは週次の売上動向から(日販オープンネットワークWIN調べ)
ノンフィクション大賞受賞のタイミングで大ブレイク。ちょっと下がって来ていたところで、大佛次郎賞発表で再度売上上昇中、というのが一目瞭然です。賞・メディア露出の意義が良くわかるグラフになっています。
さて、では読者はどんな方々でしょう?
男女比は2:1。冒険ものですが、比較的年齢層は高めでした。角幡さん本人は40代ですが、その世代より上の世代に読者が集中しています。また、女性読者のピークが70代にあるのも面白いところです。受賞により、NHKのニュースに大きく取り上げられた、ということも関係しているのかもしれません。
続いて、読者の併読本を見ていきます。過去1年間に購入したものの上位作品はこちら。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『新・冒険論』 | 角幡唯介 | 集英社インターナショナル |
2 | 『おらおらでひとりいぐも』 | 若竹千佐子 | 河出書房新社 |
3 | 『漫画君たちはどう生きるか』 | 吉野源三郎 | マガジンハウス |
3 | 『文藝春秋』 | 文藝春秋 | |
5 | 『かがみの孤城』 | 辻村深月 | ポプラ社 |
6 | 『大家さんと僕 』 | 矢部太郎 | 新潮社 |
6 | 『銀河鉄道の父』 | 門井慶喜 | 講談社 |
8 | 『すぐ死ぬんだから』 | 内館牧子 | 講談社 |
8 | 『日本軍兵士』 | 吉田裕 | 中央公論新社 |
9 | 『国体論』 | 白井聡 | 集英社 |
9 | 『沈黙のパレード』 | 東野圭吾 | 文藝春秋 |
9 | 『日本が売られる』 | 堤未果 | 幻冬舎 |
1位こそ角幡作品でしたが、その下にはこの1年話題になった小説や新書が並びました。読者に「話題になったもの」に興味を持つ層が多いことがここからもわかります。最近の発売作品だけをピックアップしても『このミステリーがすごい! [2019年版]』や『本の雑誌 [427号(2019 1)]』などベスト10発表系のタイトルが並んでいます。また雑誌『山と渓谷』が上位に入っていたのが、『極夜行』の併読本らしいところ。
併読本にはこれ以外にも気になるノンフィクションが続々。気になったものをいくつか紹介しましょう。
発売即重版、メディアを大いに賑わせているのがこちら。森友問題を追い続けたエース記者の退職、その裏にあった報道を揺るがす事実を本人が描いた話題作。上層部の介入を訴える著者に対し、局側が反論をしていることでも非常に話題になっています。
年末にきて、今年一年の話題のニュースを深掘りする作品も再び動いています。今注目はこちら。
犬がくんくんと鼻を動かしているのは見慣れた光景ですが、単なる匂いだけでなく天気の変化や時間の変化。さらには病気にも気づけるのだそうです。匂いで世界を知ること=「犬であること」を考える1冊。なんと著者は犬にならって四つん這いで町中を嗅ぎまわったのだとか。
犬とじっくり向かい合える長い休みに、犬の気持ちについて考えてみるのはどうでしょう?
著者は凶悪殺人犯と対話することでその気持ちや考えを引き出してきた小野一光。その著作を読むと、悪夢にうなされ心がすり減ったような気持ちになります。書いている本人はいったい大丈夫なんだろうか、と心配になるほど。
「腕に蚊がとまって血ぃ吸おうとしたらパシンて打つやろ。蚊も人も俺にとっては変わりない」。内容紹介で代表的に取り上げられているこの言葉は大牟田四人殺人事件・北村孝紘のものです。なぜ人を殺すのか、なぜその人殺しと向かい合うのか。人を殺すということについて深く考えたくなる作品です。
探検といっても実際にその場所・時にいくわけではありませんが、探検好きには「探検隊」というキーワードには何かそそられるものがあります。日本列島に住んでいた祖先たちの暮らし、文化、そしてどんなことを考えていたのか?作家と考古学者による縄文世界の探検が繰り広げられています。
いまや「いきもの」と聞けば「ざんねんな」と連想されるくらいの生き物ブームですが、もともとのこのブームの火つけ役となったのが大ベストセラー『へんないきもの』です。その『へんないきもの』と『怖い絵』がコラボするという、想像もつかない一冊がジワジワきています。名画に登場する生き物を解説し、名画に隠された謎に迫ります。
ある絵に描かれた手足のあるヘビの秘密、など。美術鑑賞も動物鑑賞も面白くなること間違いなし。
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平成最後の年に新たな賞を産んだノンフィクション界がこの先どうなるのか? その行く先は、『極夜行』の売行や角幡さんの今後の活躍を通して見えてくるのかもしれません。世の中の好奇心に答え、問題をえぐる作品がどんどん産み出されることを願っています。