これほど丁寧で網羅的に放射線を説明している本をほかに知らない。この本を書棚に入れておけば、なにか事が起こったときにいつでも引き出して正確な知識を得ることができるだろう。健康診断でCT検査やPET検査を受けるときにも参考になる。しかも、科学に興味のある小中学生なら、最後まで読み終えることができるほどのわかり易さだ。
著者はつくば市にある高エネルギー加速器研究機構の准教授。長い金髪で知られるニュートリノ研究者だ。これまでにも『すごい実験』や『すごい宇宙論講義』などの一般向けベストセラーを書いている。
本書は現在も公開されている同名の無料サイトを一冊の本にしたものだ。本文の内容に差異はない。しかもスマホ用に最適化しているため、書籍よりも無料サイトのほうが読みやすい人もいるだろう。
しかし、あまりに良くできているコンテンツなので、プリンターで印刷して教育用に配っている人も現れはじめたというのだ。それゆえにこの本の定価二千円は教育者にとっては安いものだし、明らかに書籍のほうが一覧性は高い。読むだけでなく、辞書を引くように使える本なのだ。
第1章は原子と原子核についての説明だ。さすがにそんなことは知っていると思っていたのだが、目からウロコの話がどんどん出てくる。ポロニウムという放射性物質で暗殺されたロシア人の話も出てくるし、その危険なポロニウムを使っている市販の静電気除去ブラシの写真も登場する。しかし、それらの話題はけっして読者の興味を惹くための脱線ではなく、それ自体に意味があるように書かれている。
読者にポロニウムの実例を提示してから、そのつくり方を説明する。結果的に読者は現代の錬金術である核変換についても知ることができるのだ。
放射線については正しく怖がることが必要だ。
※週刊新潮より転載