晴れのち雨、雨のち晴れ。AV女優、のち――。AV女優の「のち」の後にはどんな言葉が似あうだろう?のちに続く言葉がポジティブなものであればいいなと、心から思う。この本はタイトルが秀逸だ。「その後」ではなく「のち」。「AV女優、のち」言葉の響きがとてもいい。このタイトルに惹かれて、私はこの本を手に取った。
「AV女優、のち」は、みひろ、笠木忍、麻美ゆま、愛奏(元・薫桜子)、長谷川瞳、泉麻耶、真咲南朋、7人の「元」AV女優が、現在、過去、未来について語った本である。彼女たちはみな2000年代にデビューをしている。著者曰く00年代はAV女優の意識が大きく変わった10年であり、最もパワーを持っていた10年だったそうだ。ちょうど00年代に20代だった自分も、彼女たちにはずいぶんとお世話になったものである。
みひろや、麻美ゆまはバラエティ番組に出演し、アイドルグループの恵比寿マスカッツとして活動していたので、AV女優としてではなく、アイドルや女優として認識している人も多いのではないだろうか。
彼女たちの活躍の影響もあり、昨今ではAV女優に憧れて、AV女優になる人が増えているという。昔はAV女優になるきっかけといったら、ほとんどがスカウトだったそうだが、00年代後半からは自ら応募してくる子の割合が増え、現在では応募でこの業界に入ってきた人のほうが割合としては多くなっているという。
そんなAV女優のイメージを変えたみひろと麻美ゆまがAVの世界に入ることになったきっかけのエピソードには衝撃を受けた。みひろはヘアヌード写真集でデビューをし、お菓子系アイドルとして人気を博し、Vシネマに出演したことをきっかけに、女優になりたいと思うようになったそうだ。そこでプロデューサーに相談したところ、「もう遅い」AVに出て名前を売るべきだと説得されたという。結果として彼女はAV女優での知名度を活かし、テレビ・舞台・映画で活躍する女優・タレントになった。しかしAVに出なければ女優としての未来がない、などということはなかったはずである。著者曰く、これはAVに堕とす常套手段だという。
麻美ゆまの場合はもっとひどい。グラビアアイドルとして活動をはじめたものの、あまりに仕事がなかったので、辞めて地元に帰ると事務所の社長に伝えたところ、「契約があるからやめられない。AVに出ないと」といわれ、AVの出演を迫られたという。こんなドラマやエロ漫画の世界でしか見たことのないようなことが、現実の世界で行われているということにショックを受けた。彼女たちはAV女優をステップにして、成功できたからいいのかもしれない。しかしこういうことが常套手段として用いられていることを知ると、やはり複雑な思いを抱かざるをえない。
彼女たちのようになかば騙されるような形でAVの世界に引き込まれる人がいる一方、なにか環境を変えたいという理由でAVに出演をしたという人も多いそうだ。スカウトされてやってみたら、撮影の現場ではメイクや衣装できれいにしてもらえて、チヤホヤされる。これが嬉しいというのだ。
この本に出てくる7人は口をそろえて「AV女優になったことは後悔していない」と言っている。本当にそうであってほしいと思う。とはいえAV女優という職業に対して、世間の見る目はまだまだ厳しい。みひろが結婚を発表した際や、麻美ゆまが卵巣腫瘍になった際、心ない中傷の声があがり彼女らを傷つけた。AV女優に憧れて、AV女優になる人が増えているというが、AV女優になるということのリスクが大きいということは忘れてはいけない。特に恋愛面ではみな苦労をしていることがわかる。加えてインターネットが普及したいま、身バレの心配やデータが半永久的に残ってしまうことなど、問題も多くある。
この本に出てくるAV女優たちの引退後の生きざまは、結婚した人もいれば、全く関係ない業界で働いている人、AV業界で監督やメイクとして働く人、性風俗で働く人など七者七様である。最後の性風俗で働く同年代の元AV女優の話には少なからずショックを受けた。風俗とAV業界というのは密接な関係にあり、引退後のAV女優の受け皿として機能しているというが、AV女優を卒業してからソープランドで13年働く人生というのはいったいどういうものなのだろう?想像がつかない。ほんとうに余計なお世話でしかないけれど、彼女のこれからが幸せなものになってほしいと切に思った。
最後にこの本のあとがきを引用する。
AVに出演したすべての女性が幸せになれたらいいな、と心から思っている。
この本を読むと、著者のこの言葉に深く共感する。またこの言葉が読後感をとても良いものにしていると感じた。彼女たちの未来が晴れやかなものでありますように。