ノンフィクションは一期一会、出会った時が買い時だ。いつか買おうなどと思っていても、きっと「いつか」は来ない。仮に来たとしても、既に書店には置いていなかったり、下手すると絶版になっていることもある。本書はワケありなケースであるものの、今となっては入手することの困難な一冊である。
オビの「掟破りの不動産投資法」という文言が眩しいが、色々な意味で掟破りだ。沖縄本島の県土の約8%とも言われる軍用地。これが投資家たちの手によって「金融商品」さながらに売買されているというのだ。この衝撃の実態を指南本という形から伺い知ることが出来るのが、本書『お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない!「軍用地投資」入門』だ。
軍用地とは、沖縄の米軍基地や自衛隊基地内の土地のことを指す。その約2/3は個人や、県、市町村の土地を国が借りる形になっている。一般的に不動産投資ではマンションなどを購入し、部屋を貸し出すことで家賃収入を得るのが通常だ。しかし軍用地投資は、軍用地の地主となり、国にその土地を貸し出すという形をとり「借地料」をもらうのだ。
冒頭から、見る人が見たら怒り出しそうな文言が並ぶ。
沖縄の軍用地は「ドル箱」、価格は天井知らずなのです。
なぜ、軍用地が「おいしい果実」なのかを簡単に説明すると、国が軍用地の借地料を支払うため滞納の心配がなく、安定的で長期的な収入が見込めるからである。
最大のリスクは「基地返還」
もちろん指南本であるがゆえに、なぜ「軍用地投資」が他の投資より優れているのかという説明にも余念がない。
一つは、借地料が毎年値上げの一途であるということだ。家賃に相当する「軍用地料額」の総額は、1972年の沖縄の日本復帰以降、平均5%以上で上昇している。これは毎年行われる、沖縄県軍用地等地主会連合会と国との借地料単価の価格交渉によって定められているものだ。この価格がきわめて政治性の強いものであることは想像に難くないだろう。
他にも、軍用地は民間地と比べて固定資産税が安くすむということ、また国に売却する場合、譲渡所得税控除で5000万円までが非課税といった特徴もあるそうだ。
それにしても不思議なのは、この著者が本書を出版しようと思った動機である。有限である土地に対して投資家の数が増えていけば、競争率が高くなるだけである。軍用地投資を行っている人の中には「余計なことをしやがって」と苦虫を噛み潰した人も多かったのではないだろうか。
しかし驚くのはこれだけではない。本書の著者は、れっきとした現職の防衛局職員であり、ペンネームを使用していたものの、本文中にも堂々とその旨が記されていたのである。
防衛局の主な業務は、米軍や自衛隊が演習場、飛行場、港湾などとして使用するための土地・建物などの買い入れや借り上げを行うことです。(中略)
私は土地の買い入れや借り上げ、買い入れなどを行った土地・建物などの財産の管理に関連する業務に長く携わってきました。
そしてこの記述が、やがて著者本人を窮地に追い込むことになる。事態が動き出したのは、5月下旬のこと。本書の書名とともに「無断出版」「処分検討」の文字が新聞紙面を賑わしていく。著者は防衛省に無断で本書を出版していたほか、職務で知りえた情報を元に軍用地を購入した疑いや、不動産賃貸の副業までもが明るみに出て、懲戒処分が検討される状況になってしまう。こちらの意味でも、「掟破り」であったのだ。
ちなみに個人的に気になっているのは、この事件を報じる琉球新報の以下の一文だ。
沖縄防衛局によると、この職員本人が書籍を回収している。
不思議な光景が頭に浮かぶが、「なぜ著者本人が?」という心の声を抑えることは難しい。
出版までの経緯をふまえると諸手を上げておススメできる一冊ではないのだが、事件簿としてぜひモノで記録に残しておきたい一冊である。
自主回収本と言えば、この一冊