『合成生物学の衝撃』生物学、その先の未来

2018年5月17日 印刷向け表示
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合成生物学の衝撃

作者:須田 桃子
出版社:文藝春秋
発売日:2018-04-13
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人類は誕生以来宇宙とは何か、物質とは何かを考え続けてきた。その理解が一気に進んだのは、20世紀になってからだった。

1916年 、アインシュタインが相対論を完成することで、宇宙を現代的に理解する基礎が出来上がった。27 年までに、ハイゼンベルグの行列力学とシュレディンガーの波動力学が発表され、 物質を理解するための量子力学の構築が始まった。現代物理学の基礎は、大正時代に形成されたのだ。

当時は一般人のみならず、技術者たちも、この難解な基礎科学が何の役に立つのかさっぱり分からなかった。しかし、21世紀に暮らす我々は、その恩恵がなければ生きていけない。

量子力学の応用である半導体がなければ、コンピューターも通信も存在し得ない。相対論がなければGPS(全地球測位システム)は動かない。人類は100年間という瞬く間に、基礎科学の恩恵を受けたのだ。20世紀が物理学の世紀といわれるゆえんである。

一方で人類は、生命についても有史以来考え続けてきた。53年、DNAの二重らせん構造が発見された。物理学の発展でX線を使った構造解析が可能になったからだ。以来、分子生物学は最高速度で発展し続けている。

現代物理学の応用製品が日常生活に登場するまで半世紀。そろそろ生物学も我々の日常生活にインパクトを与える頃だ。『合成生物学の衝撃』はその最先端をのぞくことができる好著だ。

日本には珍しい本格的なサイエンス専門記者による、丁寧な調査と取材が結実している。米国での取材は大学の研究室だけでなく、インターネットの母体でもあるアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)の内部にも及ぶ。

そこには様々なインセンティブで研究を進める研究者たちがいた。マラリアを媒介する蚊を撲滅するテクノロジー。壁の穴を自動修復する生物素材。合成生物学の応用は医療の分野だけでな く、産業にも応用されつつあるのだ。

最近では有機化学工業にとって、喉から手が出るほど欲しかったビシクロブタンという物質を作り出す細菌まで合成されはじめた。

ビル・ゲイツは10年ほど前に「もし自分が10代だったら、生物学を学ぶだろう」と言った。合成生物学はIT産業を凌駕する産業になり得ると考えられる証左ではないか。

合成生物学が応用技術だとしたら、遺伝子こそが基礎である。『遺伝子』はビル・ゲイツが2016年の年間ベストに選んだ本だ。著者のシッダールタ・ムカジーは現代最高の科学の語り部である。

合成生物学の応用は核物理学同様、天使にも悪魔にもなり得るとしたら、その倫理性を考えるためにも、医学の歴史を正確に学んでおいて損はない。『まんが医学の歴史』の著者は現役医師でもある漫画家だ。

ビル・ゲイツならずとも、現代の生物学から目離してはならない。 

※日経ビジネスより転載

遺伝子‐親密なる人類史‐ 上

作者:シッダールタ ムカジー 翻訳:田中 文
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遺伝子‐親密なる人類史‐ 下

作者:シッダールタ ムカジー 翻訳:田中 文
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まんが医学の歴史

作者:茨木 保
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