裏木戸に立てかけさせし衣食住。ビジネスマンなら、一度は聞いたことがあるだろう。初対面の人との話のキッカケにしやすい話題の頭文字である。「裏」は裏話、「木」は気候、「戸」は道楽・・・と続く。なかでも、天気の話題は鉄板だ。差しさわりがなく、相手も乗ってきやすい。でも、そこからどう会話を膨らせるかは、その人の腕次第である。
本書は、天気図を使ったクイズを30問収録している。解説には、実に様々な天気の情報が盛り込まれている。すぐに誰かに話したくなる、天気の知識が身につく本だ。社員に配れば、営業成績があがるかもしれない。ベテラン気象予報士の森田正光さんは、ツイッターで「やられた!って感じ」とつぶやいた。それくらい、画期的な本なのである。
では、どんなクイズなのか。早速、中身をみてみよう。
日本列島の南に低気圧がある。雨雲はどちら方面に広がっているのか。この低気圧の勢力は、強いのか弱いのか。風は、強いのか弱いのか。どちらに進もうとしているのか。一枚の天気図から様々な情報を得ることができる。天気図というと古臭いイメージがあるかもしれないが、実は天気予報サイトでも、天気図の閲覧数は想像以上に多いらしい。
この天気図をみた瞬間。私は、自分の脳みそが、音をたてて動き始めるのを感じた。沈黙のスイッチが入り、外から内に神経が向いた。天気図に集中して、この日の東京の天気をイメージし始めた。そうだ!これは、フロー状態だ。マインドフルネスだ。いや、ちょっと言い過ぎたか。でも、本当に心地良い体験なのである。
全30問。つまり、30回もフロー状態!になれる。この本としばらく時間を過ごせば、頭の中がスッキリすること請け合いだ。しかも、天気に関する知識が確実に手に入る。ビジネスのお客様相手に知識をひけらかすのは良くないが、相手が喜んでくれそうなこぼれ話を、ポロリと披露できれば好感度はアップする。
さてそろそろ、先ほどの問題の答えを発表しよう。
誰もが空を見上げたこの日。東京スカイツリーの開業日だったのだ。当日の天気が良くなかったのは、私も覚えている。あ~こういう天気図だったのか!しみじみ振り返った。解説の最後でまとめられている「低気圧が南から向かってくるときは、雨が長く降りやすい!」というポイントは、私の残りの人生できっと何度も役に立つことだろう。
これは初級編の問題だ。正解だった方が多いと思う。でも、だからといって本書を侮ってはならない。中級編⇒上級編。読み進むにつれてどんどん難しくなる。先述の森田正光さんのツイートはこう続く。「一つ間違え、二つほど迷いました。問題を解きながら防災まで視点が届いているのが素晴らしい」解き応えがあり、ためになる一冊なのだ。
著者は、テレビやラジオで活躍する「天気が好きすぎる予報士」こと増田雅昭さん。気象予報士の資格をもった編集者と、二人三脚で作った本なのだそうだ。あの出来事のあった日の天気に関するクイズのほかに、日本の特徴的な天気や災害が起こる「危険な気圧配置」のクイズもあって興味深い。その点について、著者はこう書いている。
天気を伝える仕事をしている者の役割のひとつは、災害の記憶を多くの人に伝えていくことだと考えています。この本に出てくる天気図クイズには、そんな思いを込めてつくったものがいくつかあります。 ~本書「おわりに」より
125年前に日本で初めての天気図が配られて以来、長く1枚の手書きの天気図をもとに予報が行われた時代があった。最近は、コンピュータによる予報が主流らしいが、天気図をみて初めてイメージできることもある。だから、天気図は引続き人々に閲覧されているのだ。私も、週末には必ず、ネットの天気図を凝視している。
野暮な「裏話」だが、それは「道楽」のためだ。いまの季節、競馬は三場開催といって中山・阪神・中京で開催されている。東京の天気だけで予想をしていたら、馬券は当たらない。馬券師は、東京にいながらにして、名古屋の天気や馬場を想像する力が必要なのである。(できれば、当ててから言いたかったが)
最終的な天気予報を知るだけじゃなく、多くの人が天気図から(リスクを含めた)天気のイメージをもてるようになれば素敵だ。ビジネスや道楽だけじゃない。お母さんにとっては、お子さんを自転車で送迎する時の天気や洗濯物が乾くかどうかは、重大な関心事に違いない。もっともっと、気象知識は生活に入り込んでも良いのではないか、と私は感じている。
画像提供:ベレ出版