『評価の経済学』まわりの評判が気になったときに手に取る本

2018年3月2日 印刷向け表示
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評価の経済学

作者:デビッド・ウォーラー 翻訳:月沢 李歌子
出版社:日経BP社
発売日:2018-02-16
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 本書の主題は、レピュテーションである。原書のタイトルは「The Reputation Game The art of Changing How People See You」で、評判をゲームとしてモデル化し、そのゲームを勝ち抜くためのお作法をまとめている。流し読みするだけでも、周囲からの評価を得ようと躍起になり、他者からの評価に振り回される日常を冷静に俯瞰することができるだろう。知ることで冷静になれる、単純明快な実用性がある。

また、読み込む価値も充分にある。なぜなら、本書が最終的に問いかけていることの一つは、「本物になろうと努力しますか、ズルしますか」という単純で深い問いであるからだ。

人間は悪人でなくとも、ズルしたくなり、さらにちょっとした噓やごまかしを正当化してしまう。なかでも、評判というのは厄介で、一時的に見繕うことができてしまう。例えば、有名人と仲が良いことをほのめかし、共同でセミナーを開催し、一緒に撮影した写真をSNSにアップすることはその一環である。これは評価の貸し借りとして解説されている。

そうやって実態とはかけ離れた評判を築くことで、金と名声を得ることができる。しかし、そこで本物になる努力を止めて実態と評判が乖離してしまえば、いつかは足許を救われ、儚き夢は覚める。しかし、ここで重要であり必要なことは、救いようのない評判と人間の真理ではなく、本物になるまでの過渡期に、いかにして評価ゲームを勝ち抜くかである。

本書では評価ゲームに勝つための戦略として、ルールとそれを構成する3つの要素「行動」「ネットワーク」「物語(ナラティブ)」を前編で提示する。3つの要素を個別に特集したものは多数出版されているが、この3つを組み合わせて語った書籍は希少である。地味ではあるが、3つの統合が本書の核である。

まず、「行動」とは他者の期待に応えられるかどうか、やると言ったことができるかどうかである。ズルせずに、本物になろうと努力することである。行動がなければ、ネットワークも物語も中身のないものになるが、行動だけでは評価ゲームを勝ち抜けない。「行蔵は我に存す、毀誉他人の主張、我に与からず我に関せずと存候」とは勝海舟の言葉であるが、毀誉褒貶は所詮他人ごとであるとして、行動に集中し、評価ゲームに参加しないと痩我慢することもできる。

しかし、評判が広がらないだけではなく、間違った評判が広がるリスクさえもある。酷いときには、徳を積み、有言実行しているにも関わらず、ズルした人や偽物だと思われてしまう。それを防ぐには、行動を効果的なナラティブに変換し、ネットワークに伝えることが評価ゲームの勝者になるために必要だと本書は説く。

2つ目、ネットワークとは評価を運ぶ媒体である。そして、評価とは実際にどんな人であるかではなく、どんな人だと他人から考えられているかであるため、所属するネットワークによって評価に大きな差が生じる。

幅広いネットワークの話題の中から、評価と関わる理論や事例を簡潔に紹介している。6次の隔たり、社会関係資本、閉じたネットワークと信頼、弱い紐帯と開いたネットワーク、ストラクチュラル・ホールとネットワーク仲介者といった理論的なものから、インフルエンサーとかっこよさ、リンクドインと評価の裏表、ダークネットにおける評価の活用法などデジタルの世界特有の事例まで豊富な話題を扱っている。

そして、3つ目のナラティブは、自分をどんな人間だと語るか、そして他者に自分をどのように語ってもらうかである。今日、自分自身の物語を紡ぐ機会が激増しており、使えるツールは洗練されかつ無料で手に入る。しかし、自分のことを語るのは売り込みで偏って利己的なものだと相手に思われる。そして、小さな偽りがあれば、すぐに露呈し、吊るし上げられ、築き上げた評価を一夜にして失ってしまうようになった。

著者は、オックスフォード大学コーポレート・レピュテーションセンター創設者・所長である。企業や非営利組織のレピュテーションに関する研究で世界トップクラスを誇り、事例の中心は評判を大きく崩したグローバル企業・組織である。とくにメキシコ湾原油流出事故とBP、排ガス不正とフォルクスワーゲン、不正にまみれたカトリック教会の復活劇の3つは読みごたえがある。

もちろん、大企業だけの話題にとどまらない。評価が揺れ動いた個人、例えば、タイガー・ウッズ、クリントンとモニカ・ルインスキー、もちろんトランプらが登場する。また、死後の評価も扱う。評判が歴史のなかでどのように変容し、良くも悪くも伝説になっていくのか、そのために生前どのような戦略を構築したのか、また、評価が変わることで、歴史さえ変わってしまうことの影響を、歴史上の人物を通じて紹介する。

ポストトゥルース、つまり世論の形成において感情や個人が何を信じるかのほうが客観的な事実より影響力が大きい状況であり、他者に何を語ってもらうかがより重要になっている。しかし、他人の口から、都合のよい物語を流布してもらうように、完全にコントロールすることは、とても難しい。誰しもが参加者である評価ゲーム、本書で構造を理解することで変えられることと変えられないことを区別し、準備しよう。

ずる――噓とごまかしの行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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出版社:早川書房
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信頼学の教室 (講談社現代新書)

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勝手に選別される世界――ネットの「評判」がリアルを支配するとき、あなたの人生はどう変わるのか

作者:マイケル・ファーティック 翻訳:中里 京子
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