米国の社会派監督として知られるオリバー・ストーンは2015年から2年間かけてプーチン大統領に密着インタビューし、その模様を連続ドキュメンタリー番組として制作した。本書は放送されなかった素材を含めて書き起こしたものである。
放送された直後のアメリカメディアの反感は強烈だった。ニューヨーク・タイムズは「呆れるほど寛大なインタビュー」と論評。CNNやワシントン・ポストを含む主要メディアはロシアのプロパガンダのような番組だったと批評した。
ところが一般の米国人の評価はその真逆だったのだ。アマゾンでは80%の人が本書に五つ星を付けている。「反ロシアの雰囲気のなかで健康的な解毒剤」だとコメントするものも現れた。
たしかに本書を読んでみると、プーチンは実に魅力的なのだ。あのロシアの筋肉男は非常に聡明で、歴史や文学に通じ、政治や軍事の細かな事実や数字にも強い。ジョークもチャーミングで、なによりも知的であり、繊細に見える。そのリーダーとしてのイメージはトランプ大統領の正反対なのだ。
もちろんインタビューではウクライナ情勢やチェチェン問題などについても語られている。その内容はわれわれが信じているものとは異なるものだ。どちらが正しいというよりも、少なくともロシアはそう見ているのだという認識を持つことはできる。
残念ながら北方領土問題についてストーン監督は聞いていない。逆に言うと米ロ双方ともそれほど大きな問題だと思っていないということも知ることができるというわけだ。
鈴木宗男氏の解説も非常に興味深く、翻訳もこなれていて読みやすい。参考文献も豊富であり、本書は手元において折々開くことになるかもしれない。
尚、元の番組はNHKが3月1日から2夜連続で「BS世界のドキュメンタリー」枠で放送するそうだ。
※週刊新潮転載