著者のジャンシー・ダンと夫のトムは10年一緒に暮らした後に娘を授かった。仕事は二人ともライターで大人しいタイプ。だから上手くやっていけるに決まっている。だがその思いは赤ちゃんが生まれた直後に裏切られた。ゴミ箱の中の使用済みオムツを片付けない夫にキレたのだ。
クソ野郎。この野郎。死んじまえ。
それから6年が経ち、家事をほぼ一人で担当するジャンシーは、夫に怒りを爆発させ続けている。なぜ女性だけが育児をさせられ夫は協力しないのか。
ここで一つの疑問が生まれた。愛する娘の誕生がなぜ夫婦関係を壊してしまうことになったのだろう。その謎を探り、結婚生活を元に戻すため、仕事で知りあった様々な専門家を訪ね、夫婦のカウンセリングをしてもらうことにした。
ハーバード大学進化生物学教授には、男性が家庭から逃避する適応的理由があるかと問い、事あるごとに家から脱出したがる男の心理を理解しようとする。離婚寸前カップルのカウンセリングで定評のあるプロに二人で会いに行き、涙が出るほど高価な5時間のセッションを体験する。
子どものせいにしてお互いの悪口を言い合う姿は、同じような境遇にある夫婦には多分痛すぎる会話だろう。だが、膿は出しきってしまわなければ。
次に参考にしたのはFBIの人質解放交渉人による危機介入における5段階の紛争解決方法だ。「話を聞く」「共感する」「信頼関係を築く」「影響力を得る」そして最後に「行動の変化」までの経過を、具体的な例を示しながら説明していく。これは結婚生活のみならず、どんな人間関係にも応用できそうだ。
他にもセックス・セラピスト、ファイナンシャル・セラピストなど二人の生活に直接結びつく専門家からのアドバイスにより、時間はかかったが二人の関係は劇的に修復されていく。
男女の悩みは世界共通。蓄積された疲労で母親の心や体が壊されないうちに、本書を一読してほしい。(週刊新潮2017・45号より転載)
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感情で許せない時は、きちんと理論で理解したい。この本は傑作です。