「ことりはとってもうたがすき かあさんよぶのもうたでよぶ♪」
子どもの頃、大好きだった童謡。ただ……ふと思う。小鳥が歌うのって、「好き」だからなの?
早朝、森に降りそそぐ小鳥たちのコーラス。聴く側もさわやかで心地よいけれど、小さな体に似合わぬ大きな声で精いっぱい歌う姿を見ていると、やっぱり「歌が好き」なんじゃない?という気がしてくる。
でも「歌う」ことは、わざわざ天敵に自分の居場所を教えるようなもの。つまり彼らの歌は「命がけ」。「好き」だけでは説明できない理由があるはずだ。
ここで、ルビオに登場してもらおう。ルビオはオスのクロツグミという鳥で、本書の著者が観察していた個体である。本書は「小鳥にとって歌とはなにか」、著者自身の観察成果を中心に教えてくれる。そこから見えてくるのは、意外にも「人間くさい」小鳥たちの私生活。
で、そのルビオなのだが、
クロツグミは独身と既婚とでこんなにも歌い方が変わるのか、そして、既婚者なのに独身のふりをしたくなるのがオスの本音なのだということを、すべてルビオ一人が教えてくれた。
ん? なんだか「さわやかな小鳥のコーラスの森」が「愛憎うずまく修羅の森」、みたいなことに……。実際、ルビオのいわゆる「ゲス」っぷり、読み進めながら、いま読んでいるのは「週刊文春」だったっけ?という気がしてきたほどだ。
鳥類の90%以上は一夫一妻制といわれている。ところがじつは、一夫一妻の種でも1回の繁殖で産む卵の父親がすべて同じとは限らない。
私も本書ではじめて知ったのだが、1度の交尾ですべての卵が受精するわけではない。クロツグミの場合は毎日交尾をして1日ひとつずつ、合計4個の卵を産むことが多い。つまり、夫が4日間妻を守りきればすべての卵の父親になれるが、ガードに失敗すると「間男」の卵がまじることになるわけだ。
これはクロツグミだけでなく、夫婦仲のよさそうなツバメやモズでも、5~6羽のきょうだいに1羽いるかいないかぐらいの割合で父親の違う子がまじっているそうだ。
では、この「間男」とは誰か? それを知るには、彼らの生態を知る必要がある。
クロツグミは、冬の間を東南アジアなどのあたたかい国で過ごし、春になると日本へ飛来して繁殖をする「夏鳥」と呼ばれる渡り鳥である。オスたちは日本へ渡ってくると、なわばりを確保して「ここはオレのなわばりだ!」と、歌で宣言する。そして「お嫁さん募集中!」と、こずえで声をはりあげてガンガン歌いまくるのだ。
だが結婚後は一転、時おり妻のそばで優しく歌う「愛妻モード」に変化する。「君だけに贈る愛のバラード」といったところか。まあ、微笑ましい……と思ったら、そんなに単純ではなかった。
ある日、道端でルビオがささやくように優しく歌った。すると、別々の方向から二羽のメスが飛んできて出会い、とっくみあいの喧嘩を始めたのである。(中略)ルビオはというと、何もせず、どちらかというと、私の目には、困っておろおろしているように見えた。
昼ドラさながらの展開になってきた。クロツグミの子育てには、オスの協力が欠かせない。夫が複数の所帯をもてば自分の子に運んでくる餌が減るかもしれず、メスには看過できないことなのだろう。
だがオスは、たくさん子孫を残したい。そこで、妻が産卵を終えるまではガッチリとガードするのだが、妻が抱卵している間は第2のメスをゲットすべく、独身のふりをして歌うのだ。しかも、妻にバレないようにわざわざ遠出してガンガン歌い、何事もなかったかのように巣に戻って愛妻モードで歌う……。
小鳥も個体によって個性があり、ルビオはかなりやんちゃな方だった。とはいえ別のオスたちも多かれ少なかれ「独身のふり」をして歌っていて、実験のため一時的に妻を連れ去られたオスは悲しみのあまりふさぎこむ……ことはなく、その日のうちに独身モードに戻って歌ったそうだ。また、歌わずに他人のなわばりに潜入し、よその奥さんをねらう者もいる。
そう、つまり「間男」には、所帯をもちながらちゃっかり浮気しているオスも含まれる。間男の卵を産むことは、メスにしてみれば多様な遺伝子をもつ子を残せるメリットもあるから、オスもメスも、したたかに子孫を残す努力をしていると言えるのだろう。
本書では、ほかにもたくさんの小鳥たちの歌や習性が紹介されている。毎日家にやってくるシジュウカラ、通勤で見かけるキセキレイやウグイス、大学のキャンパスでよく鳴いていたヒバリ……のはずなのに、「え? 君そんなことしてたの?」と、目からウロコの事実がたくさんあって、長くつきあってきた小さな隣人たちの知らなかった生態に、わくわく感がとまらなかった。
また、ウェブサイトとリンクして小鳥たちの歌声つきの動画を見ることができるので、鳥について「結構知ってるぜ」という人も「スズメとカラスとハトくらいなら」という人も、ぜひ本書とともに楽しんでみてもらいたい。
ところで、小鳥は巣立つ確率も大人になれる確率も低い。本書でも、ノビタキという小鳥は「巣立った1か月後には17~50%しか生存していない」という報告が紹介されている。クロツグミも、著者の経験では4歳まで戻ってくる個体はめったにいなかったそうだ。
あの小さな体ひとつで、何千キロもの長い長い旅をして、やっとの思いで日本へと渡ってくる小鳥たち。天敵を恐れながら懸命にはばたき続ける姿を想像すると、涙が出そうになる。野生下で小鳥が老衰で死ぬことはまずないだろう。彼らは、弱れば天敵に襲われる運命なのだ。
その短い命を精いっぱい生ききる小鳥たちの生きざまは、やはり尊い。そして、弱くて短い命だからこそ自分の子孫を残したいという本能をむき出しに、必死で独身のふりをしたり愛妻家のふりをしたり……。
ああ、ルビオ。「ゲス」なんて書いちゃって、ごめんね!
これはただの図鑑じゃない。読み物としても最高におもしろい!! 私も旧版で買った、ロングセラー。オススメです!
日本野鳥の会が発行する、初心者オススメのハンディー図鑑です。版をかえながらの定番・超ロングセラーで、バードウォッチャーは皆思い入れのある図鑑。『山野の鳥』と2冊組です。(が、『山野~』も税込648円のところなぜかAmazonでは現時点で高価格の中古しかないようなので、ここには貼らない。本屋さんで、ぜひ!)
大きな図鑑を開くときは、わくわくしてしまいます。写真よりも絵の方が個体差や撮影条件にひきずられずに必要な情報だけを届けてくれるので、 図鑑は写真より絵のものが個人的にはおすすめです(とくに、野外で観察した動植物を見分けるときに使いたい場合)。
人間の言葉は話せないけれど小鳥のことばを理解し、こよなく愛する兄。そして兄の唯一の理解者である弟。人間社会ではうまく生きられな兄弟の、やさしく、静謐で、ちょっと苦しくもなる、美しい小説。
『ことり』の小川洋子先生もおすすめの1冊。じつは、ハダカデバネズミも鳴き声でコミュニケーションをとっています。衝撃の見た目と裏腹に、「ピーピー」と小鳥のようなかわいらしい声で鳴き、人間以外の動物はあまり使わない「ぱぴぷぺぽ」も発音できるんだとか。
鳥好き、自然好き、東北地方好きの人には絶対おすすめ! 笑えるけれど心にしみる、東北ライフ・漫画エッセイ。「とりぱん好き!」という人同士なら、みんな仲良くなれそうな気がする。