読後感はひとこと「凄絶にして重厚な戦争映画を飽きることなく最後まで観てしまった」である。
400ページを超える大部であり、行間も狭くて、文字がぎっしりと詰まっているレイアウトだ。読み通すまでには数日かかるであろう。
しかも本書はアフガニスタンの一拠点における14時間の攻防戦を記述しているだけの、いわば記録文学だ。にもかかわらず、大切な仕事を後回しにしてまでも読みふけってしまうほどの力をもつ稀有な作品である。
2009年10月3日、アフガニスタンの山岳地帯にあるアメリカ軍前哨基地が奇襲された。守備側はアメリカ陸軍の50名。攻撃側は300名を超えるタリバン部隊だ。
撤退が想定されていたこの基地の装備は貧弱で、友軍のアフガニスタン軍が敵前逃亡するなかでの奇襲である。タリバン部隊は事前に基地を綿密に偵察しており、作戦はよく練られたものだった。
敵陣地攻撃にあたっては戦闘力3倍の法則が知られている。攻撃側は最低でも3倍、できうれば6倍の戦闘力が必要だというものだ。タリバンはその法則を守り、基地を全包囲したうえで奇襲をかけてきたのだ。
味方を援護するために数十メートルを移動することすらままならない猛攻をうけるなか、兵士が次々と殺されていく。戦闘は分単位どころか、ときには秒単位で詳細に記述される。
著者はこの戦闘の生き残りで、アメリカ軍最高位の「名誉勲章」を受賞した兵士だ。そのため視点はあくまでも冷静で、実際の戦闘に参加したものにしか記述できない鮮明な映像が目の前に広がる。
読者はまるで自分がその基地にいるような気分になり、本文と冒頭に提示されている地図をなんども見比べながら読み進めることになるだろう。
本書を原作として映画化が検討されているという。
※週刊新潮より転載